2022年5月7日土曜日

果樹やハーブの食害対策 in 16世紀:「The Gardeners Labyrinth」第27章

第27章は果樹やハーブを食害する虫やカタツムリの駆除方法です。主に古代のギリシャやローマ時代から伝わる方法が紹介されています。

ギリシャやローマ時代から1500年以上経った16世紀も科学的認識は変わっていなかったようです。(それに比べると現代の科学的知見には圧倒されます。)

もっとも、農作業の楽しみは古代から現在まで普遍だと言えます。紀元前106年生まれのキケローも以下のように書いています。

「・・・とはいえ収穫ばかりが楽しいのではない、大地そのものの力や本性もわしを楽しませる。大地は耕されて柔らかくなった胸に蒔かれた種を受け入れると、まずそれを隠して抱き続け・・・次に自らの湯気と圧力で温かくなった種を二つに割り、そこから緑の新芽を引き出す。それは根毛に支えられてゆっくりと成長し、節のある茎で身をもたげると、早思春期に入ったかのように莢に包まれる。莢から出ると、穂状に組み上がった実りを生み出し、小鳥に啄まれぬよう芒の砦で守られるのだ。」(「老年について」キケロー著 中務哲郎訳 ワイド版岩波文庫 251)

本章でお勧めされている害虫対策のうちニゲラやロケットの混植は、効果の程度はどうあれ、抵抗なく試すことができそうです。

第27章。カタツムリ、 エダシャクトリ 《果樹の害虫》、体の長い蛾、ノミハムシや土中の虫による傷害や食害に対して、樹木や果実、香味野菜に利用できる有効な駆除方法とその秘訣。 

地上でも地下でも庭の宝(作物)に忍び寄って来る様々な虫や獣による被害を全く見なかったり認識できないような鈍い視力の人はいない(と、私は信じています)。こういった外敵の攻撃のため植物は弱わり収穫は得られなくなります。迅速な対策が実行されない限り、植物は最終的に力尽き枯れてしまうことになります。

害虫が繁殖し、ひんぱんにあるいは多数見つかると、火や(庭の敷地または畑の)鉄製の蒸気装置といった大掛かりな手段でも追い払ったり駆逐できなくなります。

したがって、ここで、農夫と庭師の両方に最も役立つ(と思える)方法を述べましょう。この厄介で迷惑な被害に対抗する有効な対策をお教えします。それは古代の人とその後の人の両方が経験から発明し記した優れた技術です。

その問題に対する過去の記録から教えを求めたいと思います。まず最初に、農業について書いたギリシャの偉人アフリカヌスは、庭の植物や根に有害な土中の虫の巣穴や深穴へ雌牛や雄牛の糞を燃やした煙を風で送って燻せば、駆除して一掃できると報告しています。

賢者プリニーは自身の歴史書の中で、こう書いています。「庭主や庭師が塩を含まない純粋なオリーブ油のしぼりかすを撒けば、害虫を追い払い食害から植物やハーブを守ります。」

もし害虫がその悪行や糞を堆積させることによって植物の根に裂傷を与えるならば、この方法で一掃します。

ハーブのロケットを使った自然療法を栽培ベッドのあちこちで行えば、植物やハーブはノミハムシにかじられたり傷つけられたりすることはありません。

キャベツやすべての香味野菜はラデッシュ/ダイコンを混植することによってノミハムシの食害をかなり防ぐことができます。

賢者アナトリウスは同様のことを自身のギリシャの農業書の中で断言しています。ニゲラ(bitter fitches)もラデッシュ/ダイコンと一緒にベッドに植えるべきだと。

古代の経験者の証言によると、ニゲラのタネを大根やナタネと一緒にベッドに植えると大変役立ちます。

酸っぱいものやきつい酢も有効で、H••ban?のジュースで薄めてノミハムシ類に振りかけます。

ギリシャのパンフィロスの報告によれば、ハーブのニゲラロマーナを一晩浸けた水を植物に振りかけると、ノミハムシをやっつけます。

その他の忍び寄って来る敵の食害や傷害から土に埋めた種子を守りたいなら、(私が前に言ったように(第16章))タネを蒔く前にシニグリンまたは屋根万代草の液に一晩浸けます。そうすればどの種子でも食害されずにすむでしょう。カタツムリの殻の中に種子を入れることは、先に述べたアナトリウスが書いているように、私がカメと名付けた方法と同じだと思います。巧者パラディウス・ルティリウスが同じことを実践したことを省くことはできません。彼は次のように書いています。庭師が土にタネを蒔く前に、カメの皮の中で種子をすべて乾かすか、庭のいろいろな場所、特に非結球キャベツの間にハーブのミントを蒔くなら害虫や有害な這い回る動物の繁殖を許しません。

ニゲラやロケットのタネを(私が前に述べたように)香味野菜類の間に埋めます。月の最初の1/4期(新月から上弦の月まで)に蒔かれたそれらのタネはとても効果があります。

多くの場所で庭やブドウ園の木に大きな損害を与えるシャクトリムシと蛾の幼虫に対しては、イチジクの木の灰を草木に振りかければ追い払うことができます。

イチジクの灰とともに植物やハーブに振りかけるものがほかにもいくつかあります。

樹木の灰の場合、これらの害虫を駆除するためには(経験的な報告によれば)灰だけを単独で撒きます。

また、ラテン語で、シラー、またはスクイラと名前が付けられた大きなタマネギをベッドのあちこちに植えたり播種したりする人もいます。あるいは、庭のさまざまな場所に吊るす人もいます。

他に、庭のあちこちに川カニ・エビ?(Creuisses)を釘で固定する人もいます。これらの対策でだめなら、雄牛か雌牛の尿とオリーブオイルの搾りかすをよく混ぜ合わせて煮て熱くなるまでかき混ぜたものを利用します。この混合物が冷えてから香味野菜や樹木に振りかければ、巧者アナトリウスが自身の体験で報告しているように非常に効果があるでしょう。

偉人プリニーは自身の実践において、血のように赤いもので触れると有害な虫を同様に追い払うことができると言っています。

賢者パラディウス・ルティリウスは、庭主や庭師が庭の通路すべてで乾燥したネギ坊主なしのニンニクの葉の大きな束を燃やし、これに雄ジカ/雄ヤギの糞を加えると、その匂いが庭のあちこち特に害虫が最も多く群がっている場所へと到達し驚くほどに迅速に駆除するのを目撃だろうと言っています。

偉大な知識人のプリニーは報告しています。香味野菜のタネをニゲラのタネと一緒に混ぜて播種すれば、この香味野菜から木の枝へと匂いを届けることができます。

多くの場所で角に掛けられたカニ?(Crevices=Creuisses?)が使われているようです。

ギリシャ人の観察報告によると、これらはまた塚に集まっている害虫を駆除し増殖を抑えます。

庭師が庭から蛾の幼虫かシャクトリムシを採ってディルと一緒に水に入れて、これを冷たくしてハーブまたは木に振りかけると、その混合物で巣や幼虫さえ濡らし浸すので、それをなめてしまい迅速に効果が行き渡るでしょう。

しかし、この作業中、庭師はその混合物が顔や手に落ちないように非常に用心する必要があります。

これらに加えて、庭主または庭師は、木の大きな枝あるいはハーブの茎の近くで、強アルカリ性の石灰と硫黄を一緒に燃やすと、それは確実で簡単に準備できる駆除方法になります。

あるいは、庭主はナッツの木の下で育っているキノコを燻すか、家畜の哺育小屋/ヤギの小屋?か苦い芳香性のゴム樹脂を燃やすか、あるいは雄ジカのツノを燃やして煙を作って風に乗せて土中の虫をいぶします。

ブドウの木の灰を3日間水に浸し、その後ハーブと樹木の両方へたっぷりと振りかける方法もあります。

多くの栽培ベッドでは、タネを蒔く前にイチジクの木の灰で作った灰汁の中にタネを浸して柔らかくします。

当代の農夫や庭師は簡単な方法を発見して今や至る所で普通に使われています。これは、雨が降った後の暖かい太陽の下または陽の当たっている所で早朝に果実や香味野菜の葉または木の大枝を揺すります。夜の寒さによって動きの鈍くなっている虫はすぐに落ちるか、這い戻ることができません。その結果、地面に落ちた蛾の幼虫を庭師はすぐに殺害できるというわけです。

持ち主がハーブと木に忍び寄るその他の敵(パラディウスとルエリウスはこれを「ハーブとネギのどちらも無駄にするもの」と名付けました)を駆除したい場合、新しく屠殺された去勢された雄の羊の胃袋を購入することをいとわなかったギリシャのディオファネスの方法を思い起こしてください。その胃袋には羊の排泄物の汚物がまだいっぱい入っています。それを最も被害の大きい場所に埋めて土で軽く覆います。

2日後、庭師はそこに体の長い蛾やその他の忍び寄る敵がこぞって集まっているのは見つけるでしょう。持ち主は胃袋を取り出して遠くに運ぶか、這い出してこないようにその場に深く穴を掘って埋めてしまいます。庭師がこれを2、3回繰り返し行えば敵どもは完全に消滅し、庭を台無しにするあらゆる種類の忍び寄る敵を完全に駆除します。

フランダースの農夫たちは、蛾の幼虫が木のてっぺんまで登ってきて住み着かないように、見事に作ったわらの切れ端を木の大枝に巻いて結び固定することで株を武装します。まるで罠の仕掛けが敷設されているようです。害虫は最終的に追い払われるか、道半ばで迅速にまたは罠に遭遇した直後に引き返します。

カタツムリの退治方法は特別です。庭師がキッチンハーブにオリーブ油の搾りかすか煙突のすすをふりかけると、まるでニゲラのタネをハーブの間に蒔いたのと同じ様に、キッチンハーブから追い払うことができます。私が前に言ったように、栽培ベッドのその他の騒々しいうじ虫類や忍び寄る動物に対しても効果があります。

生鮮野菜を栽培している場合は、庭のすべての区画、ベッド、ボーダーにフェネグリークの粉末を混ぜ合わせた水を十分に振り撒くか、あるいは、私が以前書いたように経産ロバの肉のない頭骨を庭の中央に立てます。

偉人イリウス・フロントは、ヤサイの間にハーブのロケットのタネを蒔くか混植するなら、どの菜園でもン大いに役立つと述べてています。

しかし、偉人のデモクリトス、フロント、ダメージロンがギリシャの農業の教訓としてわたしたちに伝えているように、塩水に溶けたガチョウの糞をヤサイに振り撒くと栽培している庭師にとって耐え難い損害がもたらされるでしょう。


ーーーーーーおまけ

今、旬のアスパラを使った16世紀風サラダ。

強めに塩茹でしたアスパラにゆで卵の黄身の裏ごしとアーモンドパウダー、溶かしバターをかけたもの。さらにグラニュー糖をかけるとエリザベス王朝風になるそうで。

そのまんまの味です(笑)。日本人には胡麻和えの方がしっくりきそうですが、趣向を変える効果はあるかも。 

2 件のコメント:

  1. ブログ村のポタジェ・キッチンガーデンランキングを久しぶりにみて、こちらのブログを知りました。私はイングリッシュガーデンに魅了されて、ここ10年余りは英国風の庭づくりに励んできました。庭の歴史もすこし本を読んでみたり、庭づくりの本を一冊翻訳(勉強のため)してみたりしてきましたので、大変こちらのブログに興味を持ちました。少しずつ読ませていただこうと思います。

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  2. POIROT様
    こんなしょぼいブログにもかかわらずコメントに書き込み、ありがとうございます!
    今週末はOPEN GARDENの日でホストとしてもお忙しいと思います。お庭を五感で楽しまれているお客様がうらやましい限りです。
    国内はもとより海外でも有名なPOIROT様のお庭はず〜っと私の憧れです。庭づくりのご本もありがたく勉強させてもらっています。
    いつもブログを拝見してはうっとりしています。今後もご交流たまわれますよう!

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