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2025年8月11日月曜日

19世紀末の園芸施設:40. 様々な暖房方法 III-1 低圧(常圧)温水暖房 −原理−

低圧(常圧)の温水暖房装置について詳しく解説されています。まずは原理から。

HORTICULTURAL BUILDINGS.  By F. A. FAWKES. (1881)

様々な暖房方法 Ⅲ 

低圧(常圧)温水暖房


一般的な原理

熱は放射、伝導、対流によって伝わります。

・放射とは、周囲の空気温度を著しく上昇させることなく、発熱源から離れた物体へ熱が伝わる現象です。

・伝導とは、熱が物体自体を介して伝わる現象です。

・対流とは、熱が(水や空気などの)流れにのって伝わる現象です。

燃え盛る火の前に立っている人の顔が温かくなるのは放射によるものです。

火に入れた火かき棒の柄が温かくなるのは伝導によるものです。

やかんの中の水が温められるのは対流によるものです。

放射熱は、その名の通り、音や光と同様に、あらゆる方向に直進します。

放射熱の強度は、点源からの距離の2乗に反比例して減少します。この法則は光の放射と同じです。

図9は、これを非常に明確に示しています。
1ヤードの距離で、ある量の熱線が1平方フィートを覆っているとします。2ヤードでは、同じ熱線は2平方フィートではなく4平方フィートを覆います。3ヤードでは、3平方フィートではなく9平方フィートを覆います。4ヤードでは、4平方フィートではなく16平方フィートを覆うことになります。
つまり、1ヤードで、1平方フィート当たりの熱線強度が1であるとすると、2ヤードでは、1平方フィート当たりの熱線強度は1/2ではなく1/4になり、3ヤードでは1/3ではなく1/9、4ヤードでは1/4ではなく1/16・・・となります。以下同様です。


ここで、さまざまな建築材料自体の熱伝達率、すなわち熱伝導率を示した表が役立つかもしれません。


表 XVIII.— さまざまな材料の熱伝導率 (Hurst)

---------------------------------------------------------
材料 :: 熱伝導率
(キャンバス生地を1とした場合の比率)
---------------------------------------------------------
銅::1000
鉄::450
亜鉛::430
鉛::230
スレート::42
バースストーン::25
ガラス::14
レンガ(耐火)::13
レンガ(一般)::12
オーク材::4
モミ材::3
コルク::2
キャンバス生地::1


温度の異なる物質をほぼ接して置くと、温度は自然と均一になる傾向があります。
したがって、他の条件が同じで、外部からの影響がないと仮定した場合、それぞれ60度と90度の温度の2つの物質をくっつけて置けば、どちらも75度の温度になります。
熱を素早く吸収するものは、当然ながら熱を放出するのも素早いです。逆もまた同じです。
したがって、他の条件が同じであれば、温室の容積が大きいほど、突然の日光や霜の影響を緩やかに受けます。
温室が小さいほど、早く暖まりますが、暖房を切ると急速に冷えます。
温室の表面積が大きいほど、その容積に比例して温室からの放熱のスピードが早まります。


空気や水の場合、熱伝導率が非常に小さいので、伝熱は主に対流によって促進されます。

温度変化が空気に及ぼす影響については、「換気」の項で説明しています。

温度変化の影響は、空気の場合と同様に、水でもほぼ同じです。

しかし、表XVII. を見ると、空気は温度が何度でも、温度が上昇すると膨張することが分かります。一方、水は温度上昇時に膨張するためには、華氏39.2度(4 ℃)以上である必要があります。
39.2 °F(4 ℃)以下では、温度が下がる方が水は膨張します。


表XIX.—異なる温度における水の体積(相対値)

------------------------------------------
華氏温度, °F(摂氏温度, ℃)::体積
------------------------------------------
20 (-7)::1.0012000
30 (-1)::1.0003780
40 (4)::1.0000000
42 (6)::1.0000258
52 (11):: 1.0005123
62 (17)::1.0014070
72 (22)::1.002627
82 (28)::1.004143
92 (33)::1.005901
102 (39)::1.007911
112 (44)::1.010150
122 (50)::1.01261
132 (56)::1.01527
142 (61)::1.01814
152 (67)::1.02120
162 (72)::1.02443
172 (78)::1.02788
182 (83)::1.03148
192 (89)::1.03526
202 (94)::1.03922
212 (100)::1.04333
------------------------------------------

すなわち、水は39’2°(4℃)で密度が最大になるので、体積としては最小になります。

表XIXは、様々な温度における水の体積(4℃)で体積を1した相対値)を示しています。

したがって、39.2°(約40°)(4℃)以下の水の場合を除けば、空気の流れに関して述べた一般的な考察は水の流れにも当てはまることがわかります。

しかし、水は空気ほど流動性の高い物質ではないため、空気よりもはるかに正確かつ確実に操作できます。

熱水は上昇し、冷水は沈みます。これは単に、両者の比重が異なるためです。

言い換えれば、ある量の熱水は、同じ量の冷水よりも軽く、両者が接触すると、重い冷水が沈み、その沈む際に軽い熱水が上方に押し上げられます。


図版43


一般原理の実際への適用

上記の原理を低圧(常圧)の温水暖房に適用する場合、2本の水柱を用います。

一方の水柱は常にもう一方の水柱よりも高温に保つようにします。そうすれば、水は規則的に移動し続け、いわゆる「循環」が維持されます。

図92は、最も単純な形の装置の縦断面図を示しています。

図92. 暖房装置の鉛直断面図

Aはボイラー、すなわち熱の発生部を示しています。

CとDは配管で、Aと繋がる2本の水柱を含んでいます。

「2本の水柱」とは、高さのある垂直方向のパイプ部分を指します。

つまり、A、C、Dに含まれる2本の水柱は、点線H、F、G、F、つまり配管Cの上部とDとAを結ぶ配管の下部との高低差に相当します。Kは、必要に応じて水を排出するための蛇口を示しています。

A、C、Dは、配管や周囲の空気と同じ温度の水で満たされているとしましょう。この場合、水の循環は起こりません。

ボイラーAを加熱すると、パイプC内の水温は上昇し、それに比べてD内の水は冷たいので沈むので、水は押し上げられる方向に動きます。

Cのパイプ菅は中の温水から熱を吸収し、大気中にその熱を放射するので、結果的にC内の水を冷却することになります。

しかし、その間にボイラーAはさらに熱を供給するので、C内の水温は上昇し、冷却されてDで沈みます。Aが熱を供給し続け、CとDの温度が周囲の空気や周辺の物体よりも高い限り、矢印の方向で示される循環のプロセスが続きます。

水が部分的に加熱される際に膨張しますが、その膨張は空のタンクBに設けられた余剰空間で受け留めます。

パイプ内に空気が溜まって循環を妨げないように、上部が開いた小管Eが最上部のパイプCの最も高い部分に取り付けられています。

BとEは両方とも大気に開放されているため、装置のどの部分にも、水頭による圧力を除いて内部圧力がかかることはありません。

したがって、水温は212°F(100℃)を超えることはありません。

低圧加熱装置内の水は沸騰しないはずですが、蒸発によって減少する可能性があります。そのため、膨張タンクBはパイプを介してボイラーの最下部に接続されていて、減少分の水を補給するための容器として機能します。

このシステムは安全で、シンプルで、信頼性が高く、操作が簡単で、微妙な調整が可能で、園芸用途では特に、放射温度が 華氏212度 (100℃) (実際には 華氏200 度(93 ℃)) を超えないという大きな利点があります。

2025年7月9日水曜日

19世紀末の園芸施設:40. 様々な暖房方法 Ⅱ  ランプ・ガスストーブ・熱水・蒸気

 19世紀の暖房(発酵以外)はどれも、何かを燃やして空気や水の温度を上げる方法です。ここでは、温室にはやや不向きな方法が整理されています。

HORTICULTURAL BUILDINGS.  By F. A. FAWKES. (1881)

様々な暖房方法 II


ランプ

パラフィンなどのオイルを燃やすランプは暖房目的で使用されることもありますが、ごく小さなハウスを除けば効果的でないので利用されることはほとんどありません。
ランプの中には不快な臭いを放つものもあります。


ガスストーブ

燃焼生成物がハウス内に侵入するガスストーブは園芸に全く適しません。

ガスボイラーの(水を温める)場合、メンテナンス費が非常に高くなるのですが、小規模なハウスでは、その手間はそれほど大きくないことから、ガスボイラーが使用されることもあります。しかし、既存の装置よりもはるかに経済的に暖房できる装置が開発されるまでは、ホットハウス(熱帯植物育成用温室)にガスボイラーはお勧めできません(「燃料」の項を参照)。

いかなる状況下でも、園芸用にガスストーブを使用する場合は細心の注意が必要です。

ガスストーブの燃焼生成物は植物に非常に有害です。ガスストーブ自体が外壁の屋外側に設置されている場合でさえも、換気口から燃焼生成物がハウス内に吸い込まれた事例を知っています。


高圧熱水システム 

(大気に)開放された容器の水は加熱されても212 °F(112 ℃)を超えることはありません。

しかし、密閉容器であれば加圧加熱でき、はるかに高い水温にすることができます。

高圧熱水システムは、水を封入した錬鉄製のパイプ系統で構成され、パイプ内で加熱された水は300〜400 °F(150〜200 ℃)の温度でパイプ中を循環します。

この循環パイプは通常、細径です。

加熱されていない状態では、パイプ系統の水はこの膨張管の底部までに入っています。
燃料を投入して点火し、温度が上昇すると、空気は水よりも圧縮性が強いため、膨張管内の水は膨張して系統のパイプ内を満たします。

放熱面となるパイプの径は細く、温度が高いため、熱は集中して当たり、園芸用途には不向きなほどです。
さらに、パイプは高い内部圧力に耐える必要があり、パイプ近くで燃焼する危険ととも爆発の危険もあります。

システム系統の最も高い部分のパイプは膨張管として機能するように、より太いパイプにするか、または容器(タンク)が設けられています。

こうした理由により、このシステムは複数棟の組み合わせハウスにはほとんど用いられず、実際、園芸用に使用されることはほとんどありません。


蒸気

蒸気システムは、熱水の代わりに蒸気を使用する点を除けば、前述のシステム(高圧温水システム)と非常に似ています。

蒸気は熱水と同様、圧力が上昇するにつれて温度が一定の割合で上昇するという、同じ物理法則に従います。

したがって、蒸気による暖房についても高圧熱水の場合と同じ欠点が挙げられます。さらに、既に蒸気動力を使用している工場や建物のように排気蒸気や廃蒸気を利用できる場合を除き、蒸気を加熱媒体として使用することは経済的にもほとんど不可能です。


低圧温水暖房

低圧温水暖房は園芸用途に最も有利なシステムです。次ページで詳しく説明します。

2025年6月14日土曜日

19世紀末の園芸施設:40. 様々な暖房方法 I  煙道・ストーブ他

温室の19世紀における最も特徴的な進歩は暖房技術でしょう。本書でも暖房について多めのページを割いています。しかし、自動制御は全然ないので、現代とは隔世の感があります。

HORTICULTURAL BUILDINGS.  By F. A. FAWKES. (1881)

様々な暖房方法 I 

暖房は非常に広範なテーマであり、もしすべて網羅しようとすれば、本書で扱える量をはるかに超えています。

本稿では、園芸で用いられることはあるものの、通常は用いられない暖房システムについて言及し、それぞれの要点を述べることにしましょう。次に暖房に関わるいくつかの原理を述べ、最も一般的に採用されているシステムを解説し、そのシステムを構成する様々な要素について、順に論じていきます。

園芸目的で人工的に熱を得る方法としては、発酵資材、煙道、燃焼ストーブ、ランプ、ガスストーブ、高圧温水、蒸気、低圧温水などが挙げられます。


発酵資材

発酵資材による暖房はエンジニアの仕事ではなく、庭師や耕作者の領域に属すると考えられるため、ここでは取り上げません。


煙道

煙道は、単純に火炉と煙突を通路でつないだもので、暖房したい空間の近傍へ熱風を導きます。

熱風は火炉から煙突へと流れていく際に、通路を構成する材料(通常はレンガ)を加熱し、加熱されたレンガが次にその周囲の空気層を加熱します。

加熱された周囲の空気は上昇し、そこに冷たい空気がとって代わって加熱されては上昇します。このプロセス(熱伝導と対流)は、炉が熱を作り、まだ加熱されていない空気が周囲にある限り、継続します。

熱を持ったレンガはまた周囲の物体に熱を放射します(熱放射)。

煙道は急速に時代遅れになりつつあります。その主な理由(短所)は以下のとおりです。

接合部にひび割れが生じやすく、燃焼生成物が加熱されてハウス内に入り込み、植物に悪影響を与えます。

煙は華氏800度(摂氏約270度)まで加熱される可能性があり、そのような場合、煙道からの放射熱が集中すると植物が焦げてしまう危険があります。

熱の集中するところができる危険に加え、予想外の高温は空気を過度に乾燥させ、葉の生育を阻害するなどが危惧されます。

煙道は、重要なきめ細かな園芸作業でしばしば求められる繊細な温度調節や制御を行うことができません。煙道での暖房作動は不安定になりがちです。

多数の火炉がない限り、広大な一連のハウス群を効果的に暖房することはできません。

炉がひとつだけの煙道で、隣接する複数のハウスをそれぞれ暖房することはほぼ不可能だからです。

実際、たとえ他の条件が同じであったとしても、温風は温水のように効果的に制御できないと想定するのはもっともなことです。

煙道の内部には煤(これは熱伝導を非常に低下させます)が付着しがちです。

この煤を常に除去しておかないと、レンガが熱を吸収できなくなります。

また、必要以上に熱を吸収したり放射したりする煙道は燃料の無駄遣いと言えるでしょう。

一方(長所としては)、他の条件が同じであれば、煙道の初期費用は、効率的な温水暖房装置の初期費用ほど高くはなりません。

同量の燃料から得られる熱量は、温水装置よりも煙道の方が多くなります。なぜなら、適切な操作を行えば、煙道の空気は温水暖房装置の熱水ボイラーほど高温にする必要はないからです。

煙道の表面積は大きいので、表面積が小さい熱水ボイラーよりも燃焼熱をより多く吸収するはずだからです。

煙道にはこのような長所がありますが、短所による弊害がそれを上回るのです。


熱風の燃焼ストーブ

これには多くの種類がありますが、おおむね次の3つのグループに分けられます。;

—燃焼生成物と熱風を暖房対象の室内に排出するもの

—燃焼生成物は煙突から排出し、ストーブ本体からの熱放射を利用するもの

—新鮮な外気をストーブの放射面に接触させて加熱し、室内に送り込むもの


煙道に対する否定的な意見の多くは、一般的な園芸用ストーブにも当てはまるものです。

・熱は均一に分散せず、集中しがちです。

・過度の乾燥と高温を生じるおそれがあります。

・一部のストーブでは、有害な燃焼生成物が室内に漏れ出すおそれがあります。

・明らかに、通常の煙道ほど燃料効率が良くありません。

・発生する熱は容易に操作や制御ができません。

しかし、小さな園芸ハウス(霜を防ぐことだけが必要なタイプから)、馬具室、厩舎などでは、温水暖房設備は複雑で高価すぎますが、ジョイス社の製品のような、植物に有害な煙を発生させないように処理した炭を燃やす燃料ストーブなら使用が可能でしょう。あるいは、図91に示すようなゆっくりと燃焼するタイプのストーブがおそらく最適でしょう。

このストーブは耐火粘土で床と周囲が覆われていて、開放型の火格子の代わりに自在に開け閉めできるスライド式の吸気口が下部に設けられています。このストーブには煙突が必要で​​す。

図91. ポートウェイ社の低速燃焼ストーブ(特許取得済み)
シニア世代にとってはまさしく昔懐かしい鋳物製のだるまストーブ


2025年6月4日水曜日

19世紀末の園芸施設:39. 雨どいなど、施工に関する雑記

ここでも雨水処理や湿気、滴下に対する注意が述べられています。雨どいは、現代では金属製か樹脂製か、の選択になると思うのですが、19世紀は木製も有望だったんですね。19世紀なら、すっかり金属製になっているかと思ってました。

HORTICULTURAL BUILDINGS.  By F. A. FAWKES. (1881)

施工に関する雑記

この項では、他の項では触れていない施工上の詳細についていくつか説明します。

雨どい

雨どいには、鋳鉄ではなく亜鉛メッキ鋼板が使用されることがあります。

亜鉛メッキ製でもコストの削減効果は大きくありませんし、亜鉛メッキ製はたわみやすく、そこに梯子をかけることはできません。

軒板に十分な大きさがあれば、木製の雨どいを付けることができます。

木製の雨どいは、厚みがあるので木骨ハウスの他の木材部分と同等あるいはそれ以上に長持ちします。そのため、必ずしも金属材料で内張りする必要はありません。

しかし、施工者によっては木製雨どいに内張りするのを好む人もいます。その場合は木材と内張りの間に湿気が溜まらないように注意しなければなりません。

通常、屋根と側面の壁の接合部で屋根面の外縁は側壁と同じ面を形成します。そのため、屋根面外縁のプレート面に雨どいを固定すれば側壁から張り出すことになります。

側壁上にプレートを設置してそこに雨樋を固定し、雨どいの外縁が壁面からはみ出さないようにする場合もあります。

屋根の外縁に雨樋を固定する方が良いのですが、雨どいが境界となる壁からはみ出ないことが望ましい場合には雨どいを壁上に設けます(「法律」の項を参照)。

雨どいは、可能なら10フィートあたり約1インチの勾配(1/12勾配)にすべきです。しかし、常にそうできるとは限りません。勾配が平坦になるほど、縦樋の間隔は広くなります。

ハウスの谷樋はできるだけ、そばの住宅のレンガ壁に接しないようにします。

ハウスの屋根が住宅の壁に向かってどうしても下向きに傾斜せざるをえない場合、谷樋は幅広の鉛板でしっかりと雨押さえを施すとともに、その下を人が容易に歩行でき、雪、葉、その他、排水の邪魔になる物を清掃できる幅をとるべきです。

縦樋は、パイプや樋が葉などで詰まらないようにするため、パネル格子を通して排水するようにします。


部材の寸法

部材の寸法は大きすぎてもいけません。大きすぎると、太陽光を遮ったり、大気の作用を受ける面積が広くなり、反ったり、たわんだり、虫が入り込む隙間ができたり、腐りやすくなったりします。


屋根

屋根はしっかりと「結束」して壁や側面の窓に横方向の力が加わらないようにする必要があります。すべての応力が分散され、垂直方向以外の圧力がかからないようにしなければなりません。

筆者はこれまで直線形状の屋根や曲線形状の屋根のハウスを見てきましたが、そういったハウスでは斜めの木製支柱(ブレース、筋交)を必ずハウスを支えている壁の外面に着けて固定すべきとされてきました。そうしないと、レンガ造りの壁に一方的に力がかかってレンガ壁が不等沈下するでしょう。

屋根の換気口部分はハウスの他の部分と同様、閉じているとき、部分的あるいは完全に開いているときも、蝶番の部分から雨水が流れ込まない構造にする必要があります。

引き戸の桟(サッシバー)と垂木は最も滴下が生じにくい部分になるようにして、屋根を支える木材板は結露水が付着しないよう、上面を面取りする必要があります。


調度・備品類

ハウスの調度や備品類はすべて、しっかりとした耐久性のあるものでなければいけません。入手可能でも最安値の錠前、蝶番、歯車、開き戸、ドアハンドル、掛け金、紐などを使用するのは間違った節約方法です。

温室特有の厳しい空気環境にさらされてから2週間も経たないうちに錆びて役に立たなくなるような安物のリムロック(表面に着けるタイプの錠)よりも、数シリング余分に出して良質の真鍮製のほぞ穴錠を購入する方がどんな場合も有益です。

換気の吸排気口などの蝶番は、常に湿気にさらされるため、鉄製ではなく真鍮製にすべきです。


施工のポイントは本書の各所でも直接的または間接的に必要に応じて言及しています。

2025年5月25日日曜日

19世紀末の園芸施設:38. 結露と滴下

 温室内は高温多湿なことが多いので、結露が着いたり水滴が落ちたりしやすくて、植物にとっても建物にとっても大問題。当時は防滴性の被覆フィルムも循環扇もなくて、ハウスも小さくて、今以上に湿度や水滴の管理が大変だったことでしょう。

HORTICULTURAL BUILDINGS.  By F. A. FAWKES. (1881)

結露と滴下

原因

「湿度計」の項で述べたように、大気は目に見えませんが、様々な量の水分を保持しています。
温度が高いほど、空気が保持できる水分量も多くなります。
したがって、たっぷり水分を保持している高温の空気の温度が低下すれば結露が発生し、その結果、その目に見えない水分の一部が凝縮して水滴となります。

暖かい季節、冷水の入ったグラスの外側に生じる水滴、露、霧などは、いずれもその例です。

したがって、ハウス内外の気温差が大きいほど、ガラスハウスの内側で結露を生じ、その結露水は滴り落ちるか、ハウス内側の屋根面をつたって下へ流れる可能性が高くなることがわかります。

十分な換気は余分な湿気を外気へ排出し、水滴を防ぐのに大いに役立ちますが、大量の換気を行えば気温が下がってしまうので、ハウス内の高温を維持するのに何らかの工夫が必要になることも少なくありません。

屋根の勾配が小さいハウスほど、滴下する可能性が高くなります。もちろん、水滴が植物に及ぼす悪影響についてここで言及するまでもないでしょう。

凝結した水は凝結する際に熱(凝結熱)を一部放出するので、冷たくなっています。

水分が鉄の表面で凝結した場合、特にその鉄製部分が適切に塗装されていない場合は、錆びやすく、鉄はすぐに摩耗してしまいます。できた錆の一部は植物に落ちます。

構造上の予防策

ハウスの内部では結露が発生しやすいことを認識しつつ、植物、鉄製の部分、木材の部分への悪影響を可​​能な限り和らげるよう対策を講じるべきです。

具体的には、桟や垂木は水が滴りにくい形状にすること、水分が屋根面を伝って下まで流れるようにすること、桟、垂木、天窓が接する板材の頂部は水が切れるように斜めにすること、そして、費用を気にする必要がなく、望ましいと判断するなら、ハウス内に雨樋を設置することで結露水を受け、回収します。そして、鉄骨や木造材は両方ともしっかりと塗装しておくなどの対策が挙げられます。

山(棟部)と谷(樋部)が続く連棟ハウスの屋根は、水平に設置された雨樋の数が多いため、とても滴下が発生しやすいものです。

https://www.flickr.com/photos/internetarchivebookimages/20205946673/
両屋根連棟ハウス。図の右部に谷部の雨樋らしきものが見えます。屋根に降った雨水を集めるとともに、
パクストンは屋根面内側の結露水も内側屋根面を伝って樋に落ちるように工夫したことが本書で紹介されています。

ジョセフ・パクストン卿は、谷部の樋を施工する際、板の両側に小さな窪みや補助溝を設けることで、屋根からの滴下をかなり防ぎましたが、これは材質を弱め、必ずしも効果的ではありません。

また、骨材から滴下が起こらないようなハウスを建てたとしても、ガラスに結露した水はサッシバー(ガラスの格子)に遮られて、そこから流れ落ちることができず、結露した場所から直接滴り落ちるか、ガラス面を伝って流れ落ち、結局ガラスの重なった部分で滴り落ちてしまいます。

ハウス内の滴下は、結露によって引き起こされる以外に、ガラス板の重なり部分からの雨漏り、開閉中の換気口の継ぎ目から滴り落ちる雨水、あるいは換気口の開口部自体からの雨漏りによっても発生します。

屋根の勾配が非常に小さい(26度よりかなり小さい)場合、ほぼ確実に結露による滴下が生じます。 結露による以外の滴下の問題は、いかなる状況でも換気装置との接合部から濡れるおそれがないように作ることによって回避できるはずです。3 番目の換気口自体の問題は、換気に関する項で述べています。

屋外の滴下 

ハウス内部の滴下のほか、雨どいや屋根の排水システムの不具合が原因で、ハウス外部でも滴下が発生することがあります。

滴下が有利なのは、木材などの骨組みがレンガの壁の上にのせて建築されている場合だけです。この場合、側面のガラス板に当たった雨水やそこで結露した水がレンガの壁を流れ落ちないようにするべきですが、そのためにはレンガの壁上のプレートの張り出し部分が下向きなになるよう小さな凹みを作ればいいでしょう。

この凹みが滴下水を捕らえ、壁を伝って流れ落ちることなく、地面に滴り落ちるようにできます。

2025年5月9日金曜日

19世紀末の園芸施設:36. 通路

通路は庭を楽しむ重要な要素ですよね。回遊式庭園とか、歩くだけで楽しいですものね。温室も通路の大切さは同様で、狭い温室だからこその工夫が解説されています。

HORTICULTURAL BUILDINGS.  By F. A. FAWKES. (1881)

通路

園芸施設の内部の舗装には、恒久的なものと取り外し可能なものの2種類があります。

恒久的な通路

恒久的な通路は、石、スレート、レンガ、タイル、コンクリート、あるいはセメントで造ることができます。

石の通路は非常に耐久性があり頑丈ですが、スレートの通路のような利点はありません。スレート通路は湿気を逃し、清掃が容易です。しかし、スレート板は一般的な石の舗装板よりもはるかに高価です。

レンガが使用されることもありますが、通路としてとても満足する材料とは言い難いです。レンガは不規則に摩耗しやすく、良質のセメントで目地を埋めないと、継ぎ目が開いてしまいます。

厩舎で使用されているようなガラス質の青レンガも時々使用されます。

これは(下の図のように)縁が斜めにカットされているため、組み合わせると小さな横溝が連続的に形成されます。

https://www.flickr.com/photos/internetarchivebookimages/20171290883/in/photostream/

促成栽培用のピットやその床は常に湿気にさらされる可能性があります。そのような場所では、この舗装方法は非常に有効ですが、見た目が悪く、歩き心地もあまり良くありません。

タイルは、園芸施設の通路を施工する際に最も好まれる材料です。施工業者は通常、使用する6インチ (15 cm) または9インチ (22.5 cm) の赤と淡黄褐色のスタッフォードシャータイルを使用します。これを良質なコンクリートで作った床の上にセメントで丁寧に対角線方向に敷き詰めると、手頃な価格で、非常に整然としていて、耐久性があり、多孔でない、掃除が簡単で、見た目も美しい通路が完成します。

経験の浅い作業員によって不適切な敷設がなされると、いつまでも悩みの種となります。継ぎ目が開き、タイルが摩耗して緩み、ガタガタになり、見栄えが悪くなります。これらの問題を解決するには、タイルを取り外し、床を水平にし、適切に敷き直す以外に方法はありません。

一般的な栽培用ハウスにおけるタイル張りの通路については以上です。

コンサバトリーなどの展示鑑賞用ハウスでは、幾何学模様で高品質のタイルが求められ、ミントンタイルのような精巧なモザイクタイルがよく使用されます。(64~65ページ参照)

コンクリートの通路も時々採用されますが、表面を滑らかにするのが難しく、費用も通常のタイル張りの通路とほぼ同じため、コンクリート単体の通路はほとんど推奨できません。

セメントは通路に非常に適した材料ですが、コンクリートの床に敷設する必要があり、費用も良質なタイル張りの通路とそれほど変わりません。そのため、一般的にタイル張りの通路の方が好まれます。

石、スレート、コンクリート、セメントの通路では、採用した材料が自然な縁取りを形成しますが、タイル張りの通路では、縁に何らかの保護が必要です。

矮小な壁や温水管を覆うのに使用される格子でタイル通路の縁が保護されますが、そうでない場合は、石の平板または成形品、縁に沿って敷くことができるスレート板、あるいは特別に作られた縁取りタイル(いくつかの標準的なパターンがあります)のいずれかで縁取りする必要があります。


取り外し可能な通路

取り外し可能な通路は、人が足で踏むと損傷を受ける可能性のあるブドウなどの植物が植っているボーダー上に敷設するために必要です。

ボーダー上を人が直接踏む場合も土の上に敷かれた通路の上を歩く場合もかかる体重は同じですが、その体重は通路の上を歩く方が、通路がなく直接踏む場合よりもはるかに広い面積に分散されます。

この目的に適した格子状の木製通路は、4.5 x 1.125インチ ( 幅11.25 x 厚さ2.8 cm) の当て木を横方向に四つ、3/4インチ(1.875 cm)の間隔をとって、各端をきちんと段違いに交差させてつける(すのこを縦横に組み合わせたようなもの?)ことで簡単に作ることができます。

通路の堅牢性と耐久性を高めるために、これを間隔をとって並べた小さなレンガの支柱で支えるようにすることもできます。

この通路は、スレート、石、タイルほど耐久性はありませんが、最も安価で恒久的にも取り外し可能なものにもすることができます。

上記の格子状の木製通路の代わりに、装飾用の穴あきの鋳鉄板を通路として使用することもできます。しかし、鉄ははるかに耐久性が高いものの、高価で、錆びやすく、滑りやすく歩きにくいという欠点があります。

鉄製でも木製でも取り外し可能な通路は、通路下の土壌も利用できるので、恒久的な通路よりもボーダーをより広く利用することができます。つまり、ボーダーとして利用できる幅が広くなるので、通常よりも幅の狭い施設を建てることが可能になります。


一般的な注意点

ハウスはタイルなどの堅い素材で舗装できますが、取り外し可能な格子状の木製通路でさらにこれを覆っていることもよくあります。これは、洗濯婦が洗い場で履いた昔ながらの泥除けの木靴と同じ役割を果たしています。

コンサバトリーや花室の通路は、急速に舗装されるようになりつつあり、そこに椅子1、2脚とテーブルを置くのが適切で便利です。(「コンサバトリー」の項、63ページ参照)

堅い素材を通路とする場合は、排水の問題を忘れないようにしてください。

結露や散水で水分が通路に落ちやすいので、通路にわずかな傾斜をつけて水分が溜まらないように配慮する必要があります。

複数のハウスが組み合わされた建物の場合は、可能であれば通路をすべて同じ高さにすることをお勧めします。応接室からコンサバトリーへの入口を設ける場合、高さのある敷居がない場合は、コンサバトリーの通路は応接室の床より約2インチ (5 cm) 下になるようにしてください。そうすることで、コンサバトリーから応接室へ水が流れ込む危険がなくなります。

通路の幅は状況によって異なります。

栽培用のハウスは展示用ハウスにあるベンチ、ベッドや矮小壁といったものがないので、通路幅は2フィート6インチ (75 cm) で歩行に十分です。しかし、高さが地面から2フィート6インチ (75 cm) までのものが何かある場合には、通路をもう少し広く、例えば2フィート9インチ (82.5 cm) あるいは3フィート0インチ (90 cm) にします。

ハウスが小さく、利用可能なスペースを1インチたりとも無駄にしたくない場合は、例え横に障害となる物があっても、2フィート6インチ ( 75 cm) の通路で十分でしょう。

一方、大面積の大型植物用のハウスの場合、展示ステージ間の通路幅が3フィート6インチ(約90cm)あってもコンサバトリーの通路としては広すぎではありません。なお、通路の幅と位置は展示ステージの配置に大きく左右されます。

2025年4月25日金曜日

19世紀末の園芸施設:35. ボーダー

温室の内側だけでなく外側の周囲にも縁取りのように回らす栽培床がボーダーらしいです。

虫の多い日本では外側のボーダーの害虫が温室内に入ってくるのではなかろうか、と心配になります。でも、縁取りの植栽は見映えしますよね。

HORTICULTURAL BUILDINGS.  By F. A. FAWKES. (1881)

ボーダー

ボーダーの条件

ブドウの根などの栽培管理をするうえで念頭に置くべき重要な点がいくつかあり、その点からボーダーの構成がある程度決まります。

排水は完璧にしなければいけません。根は生えている場所の堆肥や土壌だけが栄養の摂取源のなります。
場合によっては、この土壌を冷たい大気にさらしてはいけないこともあります。
図 90 はこれらの条件がどのように満たされるかを示しています。

図90 .ボーダーの断面図。
A: ハウスの外側のボーダー            
A': ハウスの内側のボーダー           
B: ドレイン、排水路                     
C: 瓦礫層                                    
D: コンクリート                           
E: 正面壁のアーチ                         
F: 一定間隔の支柱で支えられた通路 


排水

地面が傾斜していて、土が軽く、水が自然に排水できる場合は、人による特別な排水は不要である可能性があります。

ボーダーの底は瓦礫や石、レンガの層で形成されます。これはボーダーの排水を促すだけでなく、根がボーダーの外の土壌へ伸びるのを防ぎます。

土が重かったり、低地だったり、ボーダーから自然に排水されない可能性が少しでもある場合は、人工的な排水を慎重に施す必要があります。

このような場合、ボーダーを作るのに最善の方法は、最初に外側の擁壁に向かって下向きに傾斜するコンクリートの層を敷き、その傾斜の最も低い地点に排水の縦溝を設けることです(図90のD)
次に瓦礫の層を作ります。ボーダーに対して横向きの小さな排水管をいくつか設置します。

次に、瓦礫の隙間に栽培土が詰まるのを防ぐために芝を敷きます。次に、ボーダー本体となる栽培土を置きます。

排水の問題は非常に重要で、特に重い(粘土のような)土壌の場合、ボーダーの領域は可能な限り地表面より上にすべきです。

図90で示すほどの大きな角度でコンクリート基礎を傾斜させることが困難な場合は、横方向の排水溝を効率的に敷設する必要があります。

瓦礫層は排水の容易さや難度に応じて 6 〜 12 インチ(15〜30 cm) の厚さにします。


ボーダーの形状

ボーダーの適切な深さは、意見や状況によって異なりますが、平均的な深さとしては 2 フィート 6 インチから 3 フィート 0 インチ (75〜90 cm) が適切だと考えられます。

ボーダーの幅は他の状況にも依りますが、屋外側の壁際のブドウの木であれば、大まかには10 フィートから 11 フィート (3〜3.3 m) が適切でしょう。一方、ハウス内のボーダーにあるブドウの木の場合、ボーダー幅は全体として垂木の長さに等しくなるでしょう。

工事

図90では、ボーダーの一部がハウスの内側にあり、一部がハウスの外側にあることがわかります。正面の壁は、根がこのどちらの方向にも走れるように基礎はアーチ状にして建てられています。 

あるいは、代わりに、軽い鉄の柱でマリオン(方立(ほうだて))を支え、マリオン間の空間をスレート板で埋めることで、正面壁の一部を省略してアーチの必要性をなくすという方法を採用することもできます(「レンガ積み」の項を参照)。

場合によっては、特に早生のブドウの場合は、ボーダーの一部を外の冷たい空気にさらして根の活動を阻害しないように、ボーダーは全体をハウス内にすることをお勧めします。

実際には、ボーダーの上部を完全に寒さから守るだけでなく、ボーダーの下部に温水パイプを設置する、すなわち「促成栽培の栽培ベッド」の項で示したような方法でボーダーの底部に熱を供給することが必要であると考えられる場合もあります。

ただし、一般的な用途であれば、図 90 に示すようなボーダーを作れば十分です。

必要であれば、間隔を空けて立てた支柱に支えられた通路によって、ボーダーをハウスの内部から後ろの壁まで通すこともできます。後ろの壁に近いボーダー部分は壁付けの樹木用に利用できます。

あるいは、コンクリートや瓦礫層は歩道のこの側を支えるために建設された壁までとし、歩道の外側の端までをボーダーとすることもできます。

後ろの壁際に(そして通路の下に)補助的なボーダーを設け、壁付けの樹を植えたり、このスペースを棚として利用したりすることもできます。

ブドウの根が隣のボーダー部分に植ったブドウの根と干渉するのを防ぐためやボーダー内の隣同志のブドウの根の干渉を防ぐためといった管理方法は異なるものの、風通しは同じにする必要がある場合などには、ボーダーに横向き(幅方向)の壁を設けることもあります。

先の図は、後ろの壁近くに通路があることを示しています。ハウスが広く、正面の近くに通路が必要な場合は、木製のトレリスの通路をボーダー上に置くのが最適です。


一般的な注意

ボーダーに関して言えば、両屋根ハウスや片流れ屋根以外のハウスでも全く同じことが当てはまります。

通路の端を支える支柱や矮小の壁は、一部の温水パイプを支えるために利用することもできますし、その他、前壁のアーチを支える支柱を厚くすればそれに固定することもできます。あるいは、ブドウの茎がパイプに近すぎる場合は、前壁の内側に少し距離をとって支柱を立ててパイプを支えることもできます。

ボーダーの土作りは建築というよりも栽培の課題であるため、本書では論じません。

屋内だけでなく屋外にもボーダーを作る場合、霜や冷たい雨から守るために、外側の部分を防水シート、敷石、シダ、マット、粗板、その他の材料で覆う方が良い場合があります。

ボーダー全体をいっぺんに作るのは必ずしも得策ではありません。

ブドウの根の成長に応じてボーダーを作っていくことはボーダー材料を節約するだけでなく、ブドウの実りを増す傾向があると、多くの園芸家は考えています。しかし、これはボーダーの栽培土にのみ言えることです。ボーダー全体で必要な擁壁、支柱、砕石、排水路などは、部分的に作るよりも一度に作る方が効率的です。

2025年3月24日月曜日

19世紀末の園芸施設:33. 照明

栽培に人工照明、LED ! が利用されているなんて、当時の人が知ったら驚きますよね。

ここでは、電照栽培についての言及もなく、もっぱら人々が夜の温室(コンサバトリーやウィンターガーデン)で過ごし、楽しむための照明について解説されています。

HORTICULTURAL BUILDINGS.  By F. A. FAWKES. (1881)

照明

栽培目的の温室では人工照明が必要になることはほぼありません。
ただし、コンサバトリー、ウィンターガーデン、花室では暗い夜に照明が必要になることがよくあります。
照明に使用できる手段は、ろうそく、ランプ、ガスバーナー、電灯です。


ろうそくとランプ

ろうそくやランプは使用しても通常植物に害を与えることがなく、多くの場合、十分役立つでしょう。


ガスバーナー 

誰もがコンサバトリーのガスバーナーに対して正当な懸念を持っています。
発生する燃焼生成物と乾いた熱は植物体に対して極めて有害だからです。

しかし、ろうそく、ランプ、電灯は多くのコンサバトリーに適していない(照度が足りない?)ので、他の条件が同じであれば、通常は間違いなく、ガス灯が採用されるに違いありません。 
植物に害を与えることなくガスバーナーを照明として使用するために多くの方法があります。

サンバーナー(当時、大きな部屋の照明のため、複数のガスバーナーを円形などに集合させた装置)は、極めて希薄な空気塊を利用して燃焼生成物をバーナーから直接外気へ排出する構造になっています。

少ない本数のバーナーがガラス球に内蔵されていて、補助シャフトまたはチューブで外部空気がバーナーに送られることによって燃焼します。

しかし、この方法だと、突風が吹くとほとんどの場合、上昇気流が逆流し、建物内に有毒な燃焼ガスを吹き込んでしまう可能性があります。

その結果、人へはごくわずかな不便が生じる程度ですが、植物には大損害を与えることになります。

図 88. 自動換気照明装置(Sugg社特許取得済み)


著者がこれまでに見た温室用ガスバーナーで最良のシステムは、図 88 に示すものです。
この図は、建物の屋根から吊り下げられたアルガンバーナーを内蔵したホヤ(ガラスの筒)を表しています。

アルガンバーナーは密閉されていて、室内の空気とは遮断されています。

矢印の方向に注目すると、熱気と燃焼生成物から成る気流がバーナーから直接、中央のチューブを通って上昇し、3 連の穴の開いた風よけを通って外気中に抜け、暴風雨でも逆流が発生しないことがわかります。

外部の新鮮な空気は、中央のチューブを囲むシャフトによって形成された環状空間を通って燃焼炎部分へ供給されます。

当然、このようなバーナーは、照明する室内の空気の温度を上げません。ただし、この点はコンサバトリーよりも住宅で重要でしょう。

図のような直径 20 インチの球形タイプは30カンデラ(一般的なろうそく30本の明るさに相当)のアルガンバーナーに適したサイズです。26インチタイプは50カンデラのバーナーに適しています。


電灯

最近の調査によれば、電灯は植物の発育に強力な影響を与えると考えられています。
しかし、このテーマはまだ未解明であり、いまのところ園芸栽培の目的で電灯を利用する意味はないでしょう。

ここでは照明手段としてのみ取り上げます。

電灯は空気を汚染せず、放射される熱はわずかで、その光色のため、日光とほぼ同じくらいよく見えます。電灯は照らす面積が広いので、光源を視線より上に高く配置できるウィンターガーデンなどに特に適しています。

A サイズの Gramme ダイナモ発電機(2.5馬力相当)で駆動する 4,000カンデラのアーク レギュレータ ランプ 1 個を地面から約 20 フィートの高さに設置すると、2 フィートから 3 フィート以内にあるガスバーナーと同等の明るさで約 500 平方ヤードの面積を照らすことができます。または、30〜40 フィートの高さに設置すると、約 2,000 平方ヤードを照らし、そのエリアのどこでも新聞を快適に読むことができます。

このような照明は、1時間、1灯あたり6ペンスから8ペンスのコストで利用できるでしょう。その場合、照明は少なくとも週50時間点灯していると仮定します。 

敷地内でエンジン、ミル、またはタービンでポンプを駆動するために電力供給が行われている場合(「給水」の項で説明したように)、この電気は電灯の稼働にも簡単に利用できます。

この場合、電灯は電源から半マイル以内であれば、コストが過度に高くなることなく任意の距離に設置できます。

ただし、半マイルを超えると、長い電気回路の抵抗を克服するために、導線をはるかに太くする必要があり、その結果、よりコストがかかるようになります。

ウィンターガーデンで電灯を見たことがない人にとって、光と影によって生み出される美しい効果を想像することは難しいでしょう。

電灯を使う多くの場面では、深い影は非常に不快なものですが、シダやヤシなどの繊細な模様を鮮明に浮かび上がらせる時には素晴らしい効果をもたらします。

2025年3月15日土曜日

19世紀末の園芸施設:32. 遮光

  昨年の夏は暑かった。。。温暖化でこの傾向が続くなら、遮光(ひよけ)はますます重要ですね。

本項では主に温室の外部に遮光カーテンを設置する方法が述べられています。外部遮光は暑熱対策の理に適う方法ですが、台風が来る日本では安易な付けっぱなしに要注意ですね。

HORTICULTURAL BUILDINGS.  By F. A. FAWKES. (1881)

遮光

強い太陽光線を和らげたい場面は頻繁にあります。
そのため、外部遮光、内部遮光、恒久的な遮光、一時的な遮光、ブラインド、白塗り、ペイント、半透明または波形ガラスの使用など、さまざまな方法があります。

恒久的な遮光

原則的には、恒久的な遮光が一時的な遮光ほど有利であるとは言えません。なぜなら、固定された日よけは真夏には非常に適しているかもしれませんが、太陽光線をすべて取り込む必要がある時期もありますから。

もちろん例外的にシダなどの植物を栽培する場合はこの規則に当てはまらないこともあります。シダなどは、自然状態で片隅や谷間、密集した茂みの下で繁茂するからです。

その場合、恒久的な固定化された遮光は推奨されないだけでなく、必要不可欠でもありません。
最も優れた恒久的な遮光材は「ハートリーのロールプレート」と呼ばれる、厚さが 1/8 〜 1/4 インチの遮光ガラスです。

不透明に見えるのは、ガラスの片面が波状になっているからです。
ガラス面が凸凹している場合、少し離れて見るとそれがまだら模様や不規則模様のように見えるものもありますが、表面全体がかなり規則的な凸凹だと、そのガラスは非常にすっきりと美しく見えます。

着色ガラスによる恒久的な遮光も、栽培のために必要な日射の熱線と光線がハウスへ十分透過し、過剰な熱線は遮断するという観点から、多方面で提唱されてきました。
が、このアイデアは、まだ実験段階から実用・商業利用段階へと至っていません。

ガラスの内側または外側に白漆を「塗布」するのは見苦しいものです。
内側に塗りつけると、かん水(シリンジ)で植物に白漆成分が滴り落ちる恐れがあり、外側に塗り付けた場合は雨で流されてしまいます。

白漆のガラス面への接着性を向上させることはできますが、接着性の向上と必要なときにガラスや木工品から白漆を剥がすのが難しくなるというデメリットをバランスさせなければなりません。

この塗布が唯一の望ましい手段である場合は必要な濃度になるまでテレピン油で薄めた白鉛塗料が適しています。ただし、この塗料はガラスの外側に塗った場合、最初の霜でほとんどが消失してしまうことに注意する必要があります。

一時的な遮光

スクリーン(カーテン)による遮光では、複雑な機構は避けてください。
スクリーンは、効率性を考慮して、できるだけシンプルにすべきです。

スクリーンの動きを一定の長さに伝えるための装置、すなわち、チェーンで動く滑車と車輪、不思議な見た目の複動ロッドやベベルピニオンなど、これらはすべて見た目は美しいかもしれませんが、雹、雨、風の嵐が予期せず来れば、ほぼ確実に壊れます。

あるいは、そのような災害に耐えたとしても、始終受ける湿気や大気の作用はより静かではありますが、厳しいものです。その影響から逃れられる可能性は低いでしょう。

コンサバトリーの屋内または屋外の垂直面の遮光は、ベネチアンブラインドで簡単に実現できることが多く、特に遮光するエリアが広い場合は、通常のロールスクリーンまたはスプリングローラータイプのスクリーンを使用します。南アフリカのグラスカーテンもこの用途に適しています。それらは芸術的で軽く、日光や雨で傷むことはありません。

栽培ハウスでは植物は屋根にできるだけ近づけて置かれ、正面のガラス面の高さは非常に短い(高さ 2 ~ 3 フィート以下)ので、垂直面の遮光は一般に不要です。

したがって、屋根のスクリーンに、より多くの注意が必要です。

屋根の外側をロールカーテン(ローラー式のスクリーン)で遮光する場合は、装置全体がそれほど手間をかけず、無理せずに、冬の間巻き取って乾燥した場所に置けるようにする必要があります。

スクリーンを巻き込むための棟の雨よけの収納ボックスは、ほぼ毎日スクリーンが必要な季節には優れた保護具となりますが、冬季にはリスクとなります。

この箱は必ず残しておきますが、遮光が必要ない季節が近づいたらスクリーンを取り外しておきます。
冬の間スクリーンをずっと箱に入れっぱなしにしておくと、湿気が入り込み、スクリーンは腐り、いつの間にか故障し、急に必要になったときに役に立たなくなります。

シンプルな巻き上げ式のスクリーンは屋根の遮光に最適です。
このタイプのスクリーンは屋根の棟に設けた縦長の箱の中のスプライン(薄い木板)またはロッド(竿)に固定します。

スクリーンを完全に開けた場合、スクリーンは必要な長さまで垂れ下がり、その下端がローラーに固定される仕組みです。ローラーを回転させると、最小限の摩擦でスクリーンを屋根に巻き上げることができます。

このローラーを作動させるために、一端に幅広のフランジ付きの木製滑車が固定されており、その周りにコイル状にコードひもが巻かれているタイプもあります。

このコードひもの一端は屋根の棟にある小さな滑車を通してあり、コードが引っ張られるとフランジ付き滑車からほどけていいきます。このほどける動作によりローラーが回転し、スクリーンが巻き上げられます。

この方法は単純ですが、滑車と反対側のローラーの端はスクリーンを非常に緩く巻き上げるので、スクリーンが不規則に巻き上げられることがよくあります。

ローラーを作動させるとても優れた方法を図 87 に示します。

図87. ローラー式スクリーンの作動モードを示す平面図。

この図は、屋根のスクリーンが開いた時の平面図です。 F A がスクリーンの端で、ローラー G H は屋根の下部にあります。

コードひもの一方の端は A で棟に固定され、スクリーンの下を通って底部まで行き、ローラーを回り、スクリーンの上を通り、B の滑車を回り、次に 別の滑車 C へとつながり、スクリーンの上を通り、D で地面に十分近く人の手が届きやすい位置まで行き、スクリーンの上を E まで行き、滑車を通り、スクリーンの上を通って、ローラーを回り、最後にスクリーンの後ろの固定点 F まで到達します。
D に掛かっている二重コードを引くと、ローラー G H が回転してスクリーンを屋根に巻き上げます。

スクリーンの端の片側がもう一方の端よりも早く上がる傾向がある場合、D で二重コードの一方をもう一方の端よりも強く引くことで、この偏りを簡単に調整できます。

二重コードはスクリーンの D 以外のどの位置にも降ろすことができます。装置の効率は変わりません。

もちろん、ヒンジ付きの跳ね上げガラス窓によって上部の換気が行われる場合はスクリーンを棟まで伸ばすことはできません。その手前で止めて、上部の換気口のすぐ下にスクリーンの収納ボックスを配置する必要があります。

横方向 (垂木と平行)に換気口がある屋根の場合は、当然、換気口間のスペースにのみブラインドを取り付けることができます。

スプリング式のスクリーンは屋外用にはお勧めできません。遅かれ早かれ、必ず故障します。

ハウス内には誘引ワイヤー、誘引支柱、つる性植物などがあるため、スクリーンを屋根の内側に固定することはめったにないので、内張のスクリーンについて議論する必要はないでしょう。

さらに、スクリーンを内側に配置するのがまったく便利であっても、遮光本来の目的を達成できなくなります。なぜなら、過度の太陽熱線がガラスに到達する前に侵入を防ぐのではなく、ハウスの内部に届くようにしてしまうからです。

多くの場合、最も便利なスクリーンの方式は、端にリングを付けて、半円形のひっかけフックを必要な場所に木工で簡単にねじ込むことができるようにしたスクリーンです。

このようなスクリーンには大気にさらされて故障する可能性のある部品はありません。それほど大規模でない場合は、スクリーンを簡単に取り外しできます。そして保管スペースもほとんどとりません。

実際、屋根のどの部分も長方形でないことが多いコンサバトリーの場合、このようなスクリーンが絶対に必要です。

もちろん、取り外しに庭師の余分な労力がかかることから、この種のスクリーンを設置することを怠る危険性はありますが、そのような余分な仕事が避けられないとわかれば、庭師ほど喜んでそれを実行する人はいないでしょう。

通常の屋外スクリーンに最適な素材の 1 つは、ティファニーの 品番4 です。

遮光は、太陽光線を穏やかにするだけでなく、太陽光線を完全に遮断する場合も有効です。キノコハウスや果物室から光を遮断する時にも注意が必要です。
すなわち、これらの施設に窓がある場合は、引き戸やその他のシャッターで注意深く遮光する必要があります。

2025年2月24日月曜日

19世紀末の園芸施設:31. 換気

 ここでの換気はもっぱら、機械式の換気扇を使わない自然換気を指しています。そのため、換気装置として、開閉するガラス窓や換気筒、換気口があげられています。

HORTICULTURAL BUILDINGS.  By F. A. FAWKES. (1881)

換気


一般原則

植物は主に根から栄養を摂取しますが、葉は肺のような役割を果たしており、その機能を果たすためには空気が必要です。

葉の気孔、葉の呼吸器官は動物の呼吸器官と同様、常に空気を必要としています。

したがって、栽培上、植物が限られた空間で栽培される場合、空気を常に入れ替える適切な手段(換気)が必要になります。

換気の問題は、植物や花の温室栽培では非常に重要なので、いくつかの関連基本原則とその適用に特別な注意を払う必要があります。

特に、植物は動物とは異なり、特に温度の変化や冷気流などの影響を受けやすく、これらの悪影響から逃げるすべがありません。

換気や空気の流れを支配する原理はあらゆる偉大な物理法則と同様に非常に単純ですが、適用するとなると複雑です。

その原理は「空気は加熱されると膨張し、冷却されると収縮する」ということです。

そのため、熱い空気は上昇し、冷たい空気は下降します。

華氏32度(0℃)の空気の体積を1000とすると、温度によって体積は次のように変化します。


表 XVII.— 異なる温度における空気の相対的な体積

さて、空気は温度が上昇すると体積が増加するため、ある一定の空間を占める空気の重さは温かい方が冷たい空気より軽くなります。言い換えれば、冷たい空気の比重は熱い空気の比重より大きいということです。

したがって、熱い空気の塊が冷たい空気の塊の近くにある場合、冷たい空気塊は熱い空気塊を上方に押し上げます。

すなわち、熱い空気が上昇するのは、熱い空気独自の力によるものではなく、単に同じ空間にあるそれほど熱くない重い空気とのバランスが崩れるためであることがわかります。

熱い空気でも接触する空気がより熱ければ、間違いなく下降します。


ここまでは上下方向の動きについてのみ述べました。

加熱された空気は周囲の冷たい空気によって上方に押し上げられますが、冷たい空気は代わって加熱された空気のあった場所に下降するだけでなく、斜め、水平、または円形の動きをすることがあります。

流路に直接、障害が生じるかもしれません。その動きが他の流れを「誘発」する場合もあります。

また、条件の組み合わせによっては、空気のような移動可能な物質が、厳密に自然の法則に従っているにもかかわらず、一見、目的なく移動しているように見える場合があります。


園芸施設の換気について議論する前に、温度変化が空気の流れに影響を及ぼす簡単な例を 1 つか 2 つ挙げてみましょう。

図 80 は、部屋 ABCD の垂直断面を表しています。

図 80. 部屋の鉛直断面とその空気の流れの方向


図80において、最初は、部屋には空気の流入口も流出口もなく、内部の空気と周囲の壁は同じ温度に加熱されているとします。その場合、部屋に空気の流れはありません。しかし、いったん側壁 AD が冷却されると、この壁に接する空気は熱の一部を奪われ、残りの空気よりも重くなってすぐに下降し始めます。

空気が下降すると、矢印で示すような別の流れが誘発されます。

また、側壁 BC が室内の空気の温度よりも高温になると、壁 BC に近い部分の空気が上昇し、壁 AD が室内の温度よりも低く冷却された場合とほぼ同じ原理で同じ方向に空気の流れが発生します。


図 81. 部屋の鉛直断面とその空気の流れの方向

別の例、図 81 の部屋 ABCD を見てみましょう。この部屋では、内部の空気と壁が同じ温度に加熱されていますが、内部の温度は外部の空気よりも高いとします。

この場合、天井と床に E と F の開口部が作られると、空気塊 E F は外部の空気よりも暖かいため、すぐに上昇します。

しかし、部屋の右側部分の空気塊は、十分な換気が行われないままになる可能性が高いです。

E と F の開口部の代わりに、E と G に開口部を設けると (図 81 の点線を参照)、一方の開口部からもう一方の開口部へ空気が移動しますが、部屋のD に近い部分は空気が滞留し、実際に空気の入れ替わりが生じない部分になります。

表 XVII からわかるように、上昇する暖かい空気と下降する冷たい空気の温度差が大きいほど、比重の違いも大きくなり、その結果、温度の違いによって生じる気流の速度も大きくなります。


ここまでは、移動する空気塊を 1 つだけとして扱ってきました。

一般的に言えば、断面積の大きい空気塊 1 つではなく、小さな空気塊が複数ある方が気流の速度が増加します。

また、非常に多数の微小な気流がある場合は、速度はさらに小さくなります。

空気塊に関するこれらの 3 つのモードは、大きく開いた換気窓の場合、多数の 2 インチの穴が開いている場合、穴の開いた亜鉛板または金網を通過する場合に相当すると考えることができます。最初の例(モード)ではそよ風が感じられ、2 番目の例(モード)ではすきま風が感じられ、3 番目の例(モード)ではおそらく最初の例よりもそよ風は弱くなるでしょう。

したがって、園芸施設の換気は、入気口と排気口の位置と大きさ、および熱放射面の位置と放射強度によって、上昇する空気塊、その速度および内部の空気交換の能力を調整して、必要な時に適切な方法で新鮮な空気を取り入れ、汚染された空気を排出する必要があります。

換気したい部分を除く周辺の空気がすべて完全に静止しているならば、換気は非常に調整しやすいのですが、特に園芸施設のように、内部と外部の空気の温度が常に変化し、一定の風、渦を伴う気流、あちこちにある障害物の存在があれば、状況はより複雑化します。

工場、大規模な施設、邸宅などの建物では、比較的簡単かつ経済的に機械換気を導入することができます。たとえば、換気扇は入気扇、排気扇の 2 つの異なる方法で利用できます。

この場合、空気はポンプで送り込んだり、排出したりすることができ、汚染された空気と新鮮な空気、暖かい空気と冷たい空気の間の適切なバランスを維持することができます。

あるいは、煙突シャフト(煙突の排気筒の部分)を排気装置として使用することもできます。

このようなシャフトの底で火を焚くと空気塊が常に動くため、この流れを利用すれば、どんな部屋や建物でも必要に応じて空気を入れ替えることができます。

この原理を果実室に応用するには、小さなシャフトを屋根か部屋から屋外へ通して、そのシャフトの下部でガスを燃焼させるだけで簡単に換気できます。

風で動くスクリュー回転式の換気装置も、空気を排出するために使用できます。

しかし、ガラスで作られた園芸施設(ガラス温室)では、温水装置による暖房よりも機械的な方法で換気する方が難しく、ほとんど不可能に近いです。

ただし、注意深く、それぞれのケースを独自のメリットに基づいて対処すれば、十分かつ効率的な換気が可能です。


園芸施設への応用

空気の流れは空気塊ごとに比重が異なることによって生じるという大原則と、そこから生じる偶発的な状況を踏まえ、温湯暖房装置がある温室(温室形状は問わない)を例に、換気や新鮮な空気の供給を常に維持するための作業を簡単にまとめてみましょう。

まず、暖房装置が作動しておらず、室内の気温が外気温と同じであると仮定します。なお、暖房装置は地面の近くに設置されており、換気口も地面の近くと屋根の頂点の近くにあると仮定します。この場合、空気の流れは生じず、したがって換気も行われません。


図 82 または 83 のハウスを仮定しましょう。

図 82.— 両屋根ハウスの空気の流れの方向を示した鉛直断面図。

図 83.—片流れ屋根(立て掛け式)ハウスの空気の流れの方向を示した鉛直断面図。


暖房装置 A が作動すると、その上の空気塊は加熱され、膨張し、上昇を始めます。

C の流出口はこの軽い空気塊が上昇して屋根を通過することを可能にし、B の流入口からは、より重い空気が入り、空気が入れ替わることを可能にします。

B から入ってくるこの重い空気は、パイプ A によってすぐに加熱され、膨張し、上昇し、この動作が何度も繰り返されます。

しかし、この空気の入れ替えは非常に迅速に行われるため、ハウス内の温度は、植物の要求に応じた温度にまで達しない可能性があります。

その場合、2 つの対策があります。

暖房装置のパワーを増すか、または、もっと良い方法は、まず C の流出口の開口面積を縮小し、次に B の流入口の開口面積を縮小します。

多くの場合、園芸施設の効果的な換気はこういった方法を適切に組み合わせることができるどうかにかかっています。


図 82 と 83 は、小さなハウスを表していると考えてください。

中規模以上の大きさのハウスの場合、それぞれのハウス内で空気を均等に暖め、空気がよどんで入れ替わらない状態ができないようにするためには、温水パイプを図 82 のように床の中央近くか、図 83の D のように後ろの壁近くに配置する必要があります。

B 以外の流入口が必要になる場合もあります。たとえば、水平のシャフト(排気筒)で新鮮な空気を D 地点に運ぶ必要がある場合です。

一般的に、暖房のあるハウスの場合、流出口の合計面積は流入口の面積よりはるかに小さくします。

実際、棟に沿った狭い通気帯が流出口として最も効果的であることがよくあります。流入口としては、側壁下部のガラス面に沿った、幅が広めの通気帯を利用します。このようにすれば、ハウスのどの部分も空気がよどみにくくなります。

さらに、空気塊が流出口 C から流出するときに流れを妨げる外部の障害があると逆流する恐れがありますが、内部と外部の空気の温度差が大きいほど、すなわち、換気速度が速いほどそれを克服しやすくなります。

ただし、流出口 C が流入口 B よりも大きく、外部の風が優勢な場合は、流れが逆転し、冷たい空気が C から流入し、B から流出する可能性があります。この影響は注意が必要です。可能であれば、冷たい空気がハウスの上部から入り、暖房装置に到達する前に植物上を通り抜けないようにする必要があります。

一方、暖房のない果樹ハウスなどでは、換気口に別の役割、つまり開けることで日中は太陽で暖められた外気をたっぷりハウス内に取り込むこと、そして、閉じることで夜間外気温が下がっても内部に昼間暖められた空気を保持することが求められます。


換気口の形状

換気口にはさまざまな種類があります。

(a) 引き戸(スライド)式のガラス窓。

(b) ガラス窓またはシャッター、上部に蝶番が付いており、弧を描くように開くタイプ。

(c) ガラス窓またはシャッター、中央を回転軸として、上部は内側に開き、下部は外側に開くタイプ。

(d) ガラス窓またはシャッター、側面の蝶番に吊り下げられ、開き戸のように開きます。

(e) 窓サッシ。

(f) 引き戸(スライド)式のシャッターまたはドア。

(g) 無双格子または窓ガラス。

(h) 平行またはその他の動きで周囲の固定ガラスから引き下ろして、重なって同じ平面となるガラス窓またはシャッター。

(i) 吸引式換気口。

(k) スロットル式換気口。

(l) 恒久的な開口。


(a) 引き戸(スライド)式のガラス窓。

このタイプは屋根の換気口として、最近までごく普通に使用されていましたが、現在では次の理由から一般に利用されなくなっています。

- 扱いにくく、調整すると大きな摩擦が生じやすくなります。

- スライドする部分の垂木は異常に厚く重いものが必要で、それが太陽光線を不必要に遮り、虫や湿気の場所を増やす原因となります。

- 引き下げた時には、スライドしたガラス窓のサッシバーと、固定フレームのサッシバーの少し離れた位置が重なって、さらに太陽光線を遮えぎってしまうことになります。

- 開けた時に雨が直接ハウスの中に入り、風下になった場合は雨と冷気がハウス前面の内側に向かって吹き込みます。確かに、雨が流れ込むのが常に必ず好ましくないというわけではありませんが、多くの場合、低温の雨はハウス内の植物に当たらないようにするべきです。

- このような引き戸(スライド)式のガラス窓に対する他の反対意見として、重りで個別にガラス窓の開閉バランスをとることはできるものの、一度に複数のガラス窓を開閉する場合、摩擦が働いて同時に操作するのは困難になります。

しかし、引き戸(スライド)式のガラス窓はキュウリのフレームなどでは依然として非常に便利なものとして使用されています。

フレームで使用する場合、ガラス窓が上下にスライドできると、フレームの最も高い部分と最も低い部分を開けることができるので、換気が十分に行えます。また、加温されたフレームの場合、外の冷気が最初にフレームの熱いパイプ近くを通過するようにできるので、より効果的です。

引き戸(スライド)式のガラス窓は、壁面樹木の覆いのように、一年のうちの一定期間ガラス窓を完全に取り外す必要がある場合にも有利です。

(b) 上部に蝶番が付いていて、開いた時に弧を描くガラス窓

このタイプは栽培用ハウスの正面の換気だけでなく、屋根の換気にも簡単に利用できます。

この方式は開閉時の摩擦を最小限に抑えることができます。

必要に応じて同時開閉も容易です。

雨が吹き込む可能性はそれほど高くないでしょう。

このタイプであれば、開閉がない場合の断面寸法と同じにできます。

これにより太陽光線による遮蔽は最小限に抑えられます。

このタイプを組み立てる際、他のほとんどの換気システムよりも複雑さが少なく、園芸栽培施設に最適な換気システムであると考えてよいでしょう。

このシステムは、レンガ造りの壁に組み込むボックス換気システム、促成栽培用ピットの下部換気システム、壁面樹木の覆いなど、側壁にガラスフレームの換気口を設置するには高さが足りない場合、木製の換気システムが必要な場合にも活用できます。

(c) 回転(ピボット)式換気窓。

これは、前に述べた換気窓 (b) に似ていますが、上部で蝶番(ヒンジ)により固定されているのではなく、中央の回転軸(ピボット)により固定されており、上部は内側に、下部は外側に開きます。いくつかの点で、これは蝶番(ヒンジ)式換気窓 (b) よりも有利です。回転(ピボット)式は中心の軸に対して平衡状態にあり、その結果、開くのに必要な力が少なくて済みます。

しかし、大型の鉄骨コンサバトリーなど、各換気窓の面積が大きい場合や、開いたときに換気窓の突き出し面積を小限に抑えたい場合、および開閉時の力を特に考慮しなければならない場合を除いて、これらを使用することはめったにありません。

 一般的な栽培ハウスにおいて、回転(ピボット)式換気窓にはいくつかの欠点があります。

各換気窓の半分は内側に開くことになるので、その結果、近くにあるブドウ、植物、花などに干渉する可能性があります。

屋根の換気窓として使用すると、雨が外側ではなく内側へ傾斜に沿って流れ込む傾向があります。 

蝶番(ヒンジ)式換気窓よりも構造が複雑で、反対側の半分が留め継ぎの溶接部分に突き当たるので故障しやすくなります。

一方、回転(ピボット)式換気窓は、単純な蝶番(ヒンジ)式換気窓よりも見た目が少しすっきりしていて、もっと職人技が必要だと考える人もいることは認めなければなりません。

箱型換気口、小さな木製のシャッターなどに回転(ピボット)式を採用する必要はまったくありません。

(d) 開き戸タイプの換気窓、側面に蝶番で留めつけられたガラス窓。

栽培用のハウスでは、換気扇をこのように構築することはめったに推奨されません。第一に、各サッシを開くと、上から下へと空気が流入し、その結果、入ってくる空気全体を暖めることができないためです。第二に、同時開閉はそれほど簡単ではありません。

しかし、開き窓換気は、建築設計上、容易に適用できるので、多くのコンサバトリーや展示用ハウスにとって非常に便利な形式です。栽培ハウスの場合のように、空気が入るときに暖める必要がそれほどなく、垂直の高さ全体にわたって空気を入れるのが有利な場合があるからです。また、図 84 に示すように、両開きにして風向に対して風下側の窓が開くようにすると、風の悪影響を受けずに換気を行うことができます。


図 84.—開き窓の換気扇の平面図。


風が AからB 方向へ吹いている場合、実線で示した開き窓を開けて、点線で示した開き窓は閉じます。

風が D から C へ吹いている場合、点線の換気窓を開き、実線の換気窓は閉じます。

きちんと閉まるように、両開きでは中心柱に隅肉溶接がある場合もありますが、問題ありません。この開け方は簡単に実行できます。 

(e) 窓枠 窓サッシ

この換気方式は栽培ハウスでは実用的価値がありません。

重りを入れる重いケースは光を遮ります。

引き戸(スライド)式ガラス窓 (a) に示したように、開けた時、重なり合ったサッシバーとフレームが不快に感じられます。

同時に開くことができません。

換気装置「b」「c」「d」よりも高価で複雑です。

もちろん、植木鉢小屋、種苗室、果物室、その他のレンガ造りの建物など、通常の量の光と換気しか必要としない建物では役立ちます。

(f) スライディング式のシャッターまたはドア、引き戸

引き戸が役立つ場合もあります。たとえば、キノコハウスやそれに類するハウスの内側の窓など、通常暗くしておく必要がある場合です。しかし、レンガの壁の換気装置として時々使用される場合や特別な状況を除き、園芸作業では換気のために引き戸をつける必要はありません。

(g) 「ヒットアンドミス」格子。 無双格子

これらは通常、装飾的な鉄細工やガラス板で作られます。

The latter would not, under any circumstances, give sufficient ventilation for horticultural purposes, the former may be sometimes useful for fixing in the brick walls of houses having no vertical lights; for letting cold air into, or hot air out of, the spaces below the beds of forcing-houses; or for maintaining an equilibrium between the bottom heat and atmospheric heat of cucumber or melon houses, &c. 

無双のガラス板はどんな場合も園芸目的にかなう十分な換気を提供することはありませんが、無双格子は、側壁にガラス窓のないハウスのレンガ壁に取り付けたり、促成栽培ハウスの栽培ベッドの下のスペースに取り付けて、外の冷気を入れたり、熱蒸気を排出したりと、キュウリやメロンハウスなどの発酵底熱と大気熱を調整する時などに役立ちます。

(h) 同じ平面で、周囲の固定ガラスから平行またはその他の動きで開くガラス窓またはシャッター。

このシステムは、果樹園または温室の棟全体に沿って垂木と同じ方向に換気する方式で、少量の換気を確保するのに役立つことが往々にあります。ただし、温度が上昇する前に冷たい空気が葉に接触するため、一般的に好ましくないと考えられています。

さらに、このシステムには、ねじれ歪みが発生しやすく接合部がしっかりと閉じにくいため、このタイプの換気口(通気帯)が使用されている温室では燻蒸することがほとんどできないという欠点があります。

このような方式が組み込まれたハウスでは外側にブラインドを簡単に取り付けることができません。


図85.—アルキメデスのスクリュー式換気口。ホーワース社特許取得。


(i) 吸引式換気口

これは、中空の円筒内で、非常に速いピッチで回転するスクリューが付いていますです。回転しながら空気を吸い込み、風羽によって作動します(図 85 を参照)。

(k) スロットル換気装置は、主にトービンやその他の通気孔に使用されます。

暖房装置のある温室ではあまり使用されませんが、花室やコンサバトリーに導入すると効果的です。花室やコンサバトリーでは、入ってくる空気を任意の方向に送る必要があったり、建物内の空気と混合する前に冷たい空気の流れを熱いパイプに当てる必要があるので、そういった場合に有効です。

これらは、回転(ピボット)式換気窓 (c) と同様に、フタが平衡状態を保っていると言えます。なぜなら、開いている量や空気が通過する速度に関係なく、回転軸(ピボット)の片側の圧力が常にもう一方の圧力と釣り合うように開いたり閉じたりすることがないためです(図 86 を参照)。

図 86. —「スロットル」換気装置の縦断面。


(l) 恒久的な開口部

栽培ハウスに関して恒久的な開口部は、当然ながら、例外的とみなされるかもしれません。

この換気システムについて言及する理由は、新鮮な空気は常に、どんな状況でも必要ですが、新鮮な空気の流入を制御することも必要なことだからです。

それでも、恒久的な換気口を維持するために設けられた廊下や大きなウィンターガーデンなどに繋がるガラスが備わっていない鉄組みの小領域では空気の流れを制御することは求められていません。

密閉性に優れたドアやサッシなどでも、その周囲にある多数の割れ目は避けられない恒久的な換気口とみなすことができます。

一般的に園芸施設で求められるものを考えるにあたり、使用する換気装置はすべてかなりぴったりとフィットする必要があることを念頭に置くべきです。そうしないと、ハウスを燻蒸または燻煙にするのが難しくなる可能性があります。

もし可能であれば、暖房された温室に入る空気は、入室後できるだけ早く必要な温度に上げる必要があります。

一般的に言えば、下部換気口(入気口)はできるだけ低く、上部換気口(流出口)はできるだけ高くする必要があります。

また、一般的に言えば、下部換気口と上部換気口は建物の全長さにわたって設置される必要があります。

可能であれば、上部換気口は強風の影響を最も受けにくい位置に配置する必要があります。

すべての換気口のジョイントは、開いている時も閉っている時も雨が流れ込んでハウス内に滴り落ちないように構築する必要があります。植物を地面より高く持ち上げる必要がある場合、そのための栽培ベンチは状況に応じてさまざまな材料で作られます。

2025年2月11日火曜日

19世紀末の園芸施設:30. 栽培ベンチ

本項は英語で"Staging"となっています。植物の栽培や鑑賞用の置き台のことのようですが、現代風に「栽培ベンチ」としました。観賞用だと「ステージ」の方がぴったりくるのかもしれませんが。。。各種栽培ベンチの寸法まで事細かに書かれていて、当時の意匠的なこだわりが感じられます。

HORTICULTURAL BUILDINGS.  By F. A. FAWKES. (1881)

栽培ベンチ

植物を地面より高く持ち上げる必要がある場合、そのための栽培ベンチは状況に応じてさまざまな材料で作られます。


木製の栽培ベンチ

植木鉢を支え、排水し、湿気がたまらないような栽培ベンチがほしい場合は、通常の厚板、たとえば 3 インチ x 1 インチの材木を1 インチ間隔であけてスノコにしたものに、短い間隔で支え棒を付けた格子細工が最適です。適切な長さの脚かレンガを支え棒とします。

これが「木製スノコベンチ」と呼ばれるものです。

栽培ベンチを計画する際は、スペースの節約と利便性を検討してください。1 つの通路で十分なら、通路を2つ設ける必要はありません。

ベンチは手が届かないような幅にしてはいけません。

ベンチとガラス面の間の距離をよく確認してください。

栽培する予定の植物の種類と高さにも注意してください。

栽培ベンチの計画の良し悪しは、こういった点すべてに注意を払っているかどうかによって決まります。

どの場合も、それぞれのメリットに基づいて決定する必要がありますが、次のヒントが役立つでしょう。


両屋根ハウスの栽培ベンチ。

幅が最大 12〜 13 フィート (3.6〜3.9 m) の両屋根温室では、中央に 1 本の通路を設け、その両側に平らなベンチを配置するのが最も経済的です(図 73 を参照)。

平らなベンチの最も便利な高さは床面から 2 フィート 6 インチ (75 cm) 、つまり通常の栽培ハウスの側面のガラス窓を支えているレンガ造りの側壁の高さとほぼ同じです。

通路が 2 フィート 9 インチ (82.5 cm) の一定の幅で、各側面の 幅9 インチ (22.5 cm) の壁に 4 インチ (10 cm) 幅の木組みの窓枠が施工されていると仮定した場合の最も経済的なベンチ幅は表 XII のとおりです。

図 73. 幅の狭い両屋根ハウスにおける栽培ベンチの平面配置図。


表 XII.—小型両屋根ハウスの栽培ベンチの寸法

通常の植物であれば4 フィート 9 インチ (142.5 cm)が平らなベンチで手が届く幅の限界です。

庭師にとって、手が届く範囲を越えると植木鉢や植物の世話が面倒になるだけでなく、側面の換気窓に同時開閉ギアが付いておらず別々に開けなければならない場合、各サッシの「セット オープン」が異常に長くなってしまい邪魔になります。さもなくば、庭師の腕が痛くなり、機嫌が悪くなるでしょう。

幅が 12〜 13 フィート (3.6〜3.9 m) を超える両屋根ハウスの場合は、必ず 2本の通路が必要です (図 74 を参照)。

すなわち、両サイドに2つと中央に1つの栽培ベンチができます。中央の栽培ベンチは最も便利で、必要に応じて平らなベンチにも段状のベンチにもできます。

各通路幅が2 フィート 9 インチ (82.5 cm) で、側壁の木枠部分の幅が 4 インチ (10 cm) だとすると、中央の栽培ベンチと両サイドの栽培ベンチに割り当てることができる寸法は表 XIII のようになります。

図 74. 幅の広い両屋根ハウスにおける栽培ベンチの平面配置図。

表 XIII. 大型両屋根ハウスにおける栽培ベンチの寸法


両サイドの栽培ベンチは通路に十分な頭上スペースを確保できる幅が必要です。ハウスの軒の高さが 5 フィート (1.5 m) で、屋根の傾斜が 1 フィート (30 cm) あたり 6 インチ (15 cm) 以上である場合、2 フィート (60 cm) 幅のサイドベンチであれば、隣接する通路の中央で約 6 フィート 6 インチ (205 cm) の頭上スペースを確保することができます。

段状の栽培ベンチの寸法については後で説明します。

1 つの両屋根温室が別の温室と直に繋がっている場合、または内部の配置が許す場合は、図 74 の両端に示すように、2 つの通路を 1 つに収束させる必要はなく、連続させることができます。これにより、ベンチのスペースが節約できます。

この配置は、図 74 を 1 つの温室ではなく、点線で仕切りとドアによって区切られた2 つの温室と見なすと、より明確になります。


片流れ屋根(立て掛け式)ハウスにおける栽培ベンチ

片流れ屋根(立て掛け式)ハウスの栽培ベンチを計画するにあたり、非常に便利な方法が図 75 に示されています。

図 75. 片流れ屋根(立て掛け式)ハウスにおける栽培ベンチの配置。

この図では、前面に平らな栽培ベンチがあり、端まで続いています。後壁には別の平らな栽培ベンチと段状の栽培ベンチがあります。

いずれにしても、前面のベンチを広くしすぎるのはお勧めできません。また、段状であっても、後ろのベンチが屋根のガラス面から離れすぎてしまう可能性があります。

片流れ屋根ハウスの長さが短すぎて前面のベンチを端で折るのが難しい場合は、図 76 に示すように、前面のベンチと後ろのベンチを同様にまっすぐに配置してもかまいません。

図 76. 短い片流れ屋根ハウスにおける栽培ベンチの配置。

通路の幅を 2 ​​フィート 9 インチ (82.5 cm) 、前面の壁で木枠が占める幅を 4_1/2 インチ (11.25 cm)とすると、表 XIV はさまざまな幅の片流れ屋根ハウスにおける前面のベンチと後壁のベンチに適した寸法を示しています。

表 XIV. 片流れ屋根ハウスにおける栽培ベンチの寸法

もちろん、幅の広い片流れ屋根ハウスでは、後壁のベンチの後ろの部分にもアクセスしやすいように、前面だけでなく後壁にも通路を設ける必要があるかもしれません。

その場合、通路は後壁に直接接している方がよいでしょうが、そこに占める栽培ベンチのスペースを完全になくす必要はありません。通路から張り出したヘッドライン上の小さな棚が後ろのベンチの上部にあると非常に便利です。

同じ一般的な注意事項が、3/4 スパンハウスの栽培ベンチの設計にも適用できます。


段状の栽培ベンチ

特に片流れ屋根(立て掛け式)ハウスでは、はしご、階段、または段状のベンチを地面から棟まで同じ幅の多数の小さな段で作るのが過去に流行しました。

これを今でも適切だと考える庭師もいるかもしれませんが、一般的には段の数は少なくして、上に行くほど幅を広くする方が有利であることがわかっています。

そうすれば、スペースを節約し、さまざまなサイズの植木鉢や植物をうまく配置できます。

後部の段状のステージの最初の段は、床面から 2 フィート 6 インチ (75 cm) の高さにするなどして、前面の平らな栽培ベンチと同じ高さにすることもあります。

それに続く段は6 〜 9 インチ (15〜22.5 cm) ずつ高くしていきます。

ただし、この点については、置く植物の高さなどに大きく左右されるため、一般的な規則を定めることはできません。

通常、段状のベンチの傾斜は屋根の傾斜ほど急にする必要はありません。前に草丈の低い植物を、後ろに草丈の高い植物を配置すれば、樹上の葉のラインは屋根とほぼ同じ傾斜になります。

植物の生育条件、屋根の傾斜、ハウスの幅などに応じて段状のベンチの寸法も変えなければなりません。

なお、表 XV は一般的に片流れ屋根のハウスの段状のベンチがどのような構成になっているかを示しています。もちろん、前の項の最後で説明したように、後ろに通路を設けずに、このような段状のベンチを後ろの壁まで伸ばすことが望ましいとした場合を仮定しています。

後ろのベンチの端を折る必要があるけれども、ハウスにそのための長さが足りない場合は、段数を減らすのがよいでしょう。

表 XV.—片流れ屋根(立て掛け式)ハウスにおける段状ベンチの寸法

片流れ屋根ハウスでは16 〜18 フィート (4.8〜5.4 m) といった幅が必要になることはめったにありません。

両屋根ハウス用の段状ベンチは取り扱いがかなり簡単です。

通路に向かって両側に下​​りていく段となるため、このような段状の栽培ベンチは手が届きやすいものとなります。

片流れ屋根ハウスの段状のベンチのさまざまな条件に関する注意事項は、両屋根ハウスの段状のベンチにも当てはまりますが、一般的な用途には表 XVI の寸法が適切であることがわかっています。

表 XVI.  両屋根ハウスにおける段状ベンチの寸法

注意: 実際のベンチ全体は両側に段を形成するため、下の各段の幅の 2 倍に 最上段の幅を加えたものが中央の栽培ベンチの幅に等しくなります。

上記の栽培ベンチはすべて、ガラス屋根面の傾斜ラインとある程度まで対応しています。ただし、一部のコンサバトリーや花室の型ではガラス屋根面の傾斜ラインと対応しない場合もあります。

花を列状に見せたいけれども、それを純粋に自然な方法で作り出せない場合は栽培ベンチの最上段をガラス窓下の 2 フィート (60 cm) の高さの低い壁の上に置き、続く各段を地面に近づけるように下げていきます。この場合、栽培ベンチの傾斜方向は屋根の傾斜方向と反対になります。図 77 は、このベンチ配置を施工した八角形の小さなコンサバトリーを示しています。

このコンサバトリーの内部幅が 12 フィート (3.6 m) の場合、各段幅は 9 インチ (22.5 cm)で、中央に 5 フィート (1.5 m) の幅の舗装スペースが確保されます。

コンサバトリーのこのタイプのベンチの段は、栽培ハウスのベンチの段よりも幅が広くて、高さ方向の間隔は狭い方がよいでしょう。そうすることで、エッジによって形成される鋭いラインがそれほど目立たなくなります。

このような栽培ベンチに木製の脚を付ければ、前方の脚は回転させることができます。

図 77 - コンサバトリーにおける栽培ベンチの平面配置図

温水パイプや空きスペースを隠すために木製の格子(ラティス)を栽培ベンチの前方に固定することがあります。

段状のベンチが多数の狭い段で作られている場合、図 78 の断面図に示すように、多くの場合、支えがあります。

より広い段の場合、図 79 に示すようにとても優れた方法になります。

図 78.  狭い段で構成された段付き栽培ベンチの支えの断面図

図 79.  広い段で構成された段付き栽培ベンチの支えの断面図


固定ベンチ

多くの場合、縁に細長い帯を付けたスレート、石、またはコンクリートの棚を頻繁に使用する場合、植木鉢は湿らせておくことをお勧めします。

このクラスの栽培ベンチ、すなわち、すでに説明した通常の平らな格子状のスノコベンチは非常に安価で簡単に構築できる方式で、縁の周りを丸くして内側を亜鉛板(たとえば No. 20 B.W.G.)で裏打ちすれば非常に浅い防水ボックスができます。

ボックスの角や適切な間隔に穴を開け、余分な水分を排出するように栽培ベンチをこれらの穴に向かってわずかに傾斜させるようにします。

この浅いボックスに砂、細かい砂利、苔、またはその他の適切な材料を詰め、植木鉢をこの湿っているが水はけのよい上に置くか、または、このベンチを乾いた状態で使用して、洗った砂利または小石の薄い層の上に置き、栽培ベンチを満たすことができます。この砂利または小石は、鉢からの排水のための媒体となります。

この栽培ベンチは常に非常にすっきりとした外観で、安価であり、その木組みは​​、植木鉢の排水が滞らなければ腐りにくいです。

補足しますが、非常に重要な栽培ベンチは「イチゴ棚」です。

これは(必ずしもイチゴに限定されるわけではありませんが)ガラス面近く、前面のガラス窓の近くや両屋根ハウスの屋根の頂点の近く、または片流れ屋根ハウスや3/4スパンハウスの後壁の棟高さ近くに設置する必要があります。

このような棚に置かれた植木鉢は、過度の太陽光線から保護することが強く望まれます。これを行う簡単な方法は、イチゴ棚の片側または両側に、鉢とほぼ同じ高さの垂直の板を固定し、必要に応じて内部を亜鉛板で覆うか、そのまま使うかにして、こうしてできたボックスには排水穴を設け、必要に応じて湿った苔で過度の日射から鉢をさらに保護するようにします。

栽培ベンチが石、スレート、または亜鉛で覆われていて、暖房用の加熱パイプを通路の片側に配置する必要がある場合、片側のベンチの支柱を前面に少し引っ込めて、加熱パイプが邪魔にならないようにすることが望ましい。

一方、加熱パイプが外壁の横に設置され、栽培ベンチの前面が壁で支えられているなら、ベンチの下に多かれ少なかれ区切られた空間ができます。その場合は、熱がベンチを経由せずにハウスの内部に到達するように、外壁だけでなく内部にも換気装置を設置して空気の流れを作ることをお勧めします。

「キノコ栽培ハウス」の項( 80 ページ)に、こういったハウスに必要な棚の説明があります。


装飾用の鉄製ベンチ

装飾用の鉄製ベンチは栽培用ハウスにはほとんど不要で、主にコンサバトリーでのみ使用されます。

「展示ハウス」の 記事(63 ページ)で述べたように、展示目的で収集された植物や花は、できるだけ自然な方法でグループ化し、ベンチ方式を栽培ベッドやボーダーに採用しないでください。

コンサバトリーで栽培ベンチがどうしても必要になった場合は、装飾用の鋳鉄を使用しても問題ありませんが、塗装をしっかり行い、高くせず、目立たないように、できるだけ葉で隠れるようにする必要があります。

木製の格子状のベンチは鉄製よりもはるかに安価で、手入れをすれば長持ちし、著者の意見としてはあらゆる用途に応えるものです。

木製、スレート、石、またはコンクリート製の栽培ベンチの下のスペースは光がなくても熱を必要とする植物のためにしばしば利用されますが、鉄製のベンチの下に置かれた植物は錆びの滴りによる損傷を受けるものと考えなければなりません。 

2025年1月27日月曜日

19世紀末の園芸施設:29. 窓ガラスの開閉装置

   現代の換気窓の開閉は自動制御可能で、ガラス温室だとラックアンドピニオンのギア、プラスチックフィルムのトンネルハウスだとくるくる巻き上げ機、家庭用の小さなハウスだと形状記憶のウィンドウオープナー、が浮かびます。150年くらい前の本書に書かれている“セットオープン”は形状記憶なしのウィンドウオープナーといったところでしょうか。ラックアンドピニオンはあまりお勧めされていないようです。どれも人力が必要で大変そうです。


HORTICULTURAL BUILDINGS.  By F. A. FAWKES. (1881)

窓ガラスの開閉装置

開閉装置とは、ハウスの屋根の窓ガラス(天窓)、側面の鉛直の窓ガラス(側窓)などに付けられた換気装置で、1 回以上の操作で開ける装置を指します。

窓ガラスの開閉装置は他の装置同様、最も単純な操作で動作するものが最良であることがわかります。

セットオープン 

垂直にスイングする窓ガラスを個々に開ける装置は、通常“セットオープン”のことです。窓ガラスの中央、上部、側面どこを支点にスイングするかに関りなく、通常のセット オープンは鉄製のアームまたは四分儀で、固定した垂直ピンに引っ掛けるための穴か、間隔をとって切り込みがつけられているものです。

セット オープンのアームの長さは、アームの位置や窓ガラスの前に置かれた栽培ベンチが幅広いか狭いかによって決まります。

栽培ベンチがなく、通路が垂直のガラス窓のすぐ近くにある場合、セット オープンはスイベル ジョイントを使っているので、開口部を閉じている時にアームが方立(ほうだて)または窓の下枠近くまで迫っても通常、支障ありません。

栽培ベンチを窓ガラスの前に設置する場合、セット オープンは常に開口部に対して直角になるようにしておく必要があります。そうしないと、セット オープンを伸ばした時にベンチ上の鉢を置くスペースを占拠してしまうからです。

天窓を個々に開く場合、各窓ガラスに穴の付いた四分儀で固定することができます。

穴に取り付けたひもを垂木または主梁に固定した小さな滑車に通して動かすだけで、窓ガラスを開くことができます。

必要に応じて、ひもの端にカウンターウェイト(釣り合い重り)を取り付けることもできます(図 71 を参照)。

あるいは、ひもを後壁に取り付けた滑車に通して都合のよい長さで固定するか、カウンターウェイトで留めます。



図 71.個々の天窓用の開閉装置。


開閉装置を必要としない小さな施設を除き、スライド式の窓ガラスは現在、ヒンジ付き換気装置に取って代わられ、事実上無くなっています。したがって、スライド式の窓ガラスの開閉の配置について、ここで説明する必要はないでしょう。


一斉開閉ギア

複数の垂直窓を一斉に開閉する最も一般的で最適な方法は、各方立に固定した小さなベアリングにロッドを通すことです。ロッドには、適切な間隔で、たとえば各窓に 2 本ずつ、エルボジョイントの端を固定し、もう一方の端は窓の下部のレールに取り付けます。



図 72.—レバー式の開閉ギア。


ロッドを部分的に回転させると、エルボジョイント全体がまっすぐになります。まっすぐになることでサッシが開く仕組みです。

ロッドを作動させるには、サッシの開き具合を調整できるように穴を開けた鉄の円弧に沿って動くレバーを、ロッドの任意の都合の良い位置にねじ込むだけです。

また、栽培ベンチ、栽培ベッド、またはボーダーが窓ガラスの前にある場合、ロッドを使用して、レバーを任意の都合の良い位置に固定すればよいのです(図 72 を参照)。

この図のエルボ ジョイントは、ロッドに固定された歯車付きのピニオンで動作するラック セット オープン(ラックアンドピニオン)よりも優れています。

窓ガラスが閉じているとき、このような“ラックセットオープン”はハウスの中にロッドが突き出るので植物や花に当たりがちです。一方、エルボジョイントは閉じているときも開いているときも、植物や鉢に接触することがありません。

ギアの接続部分に「遊び」が生じないように注意する必要があります。そうしないと、風で窓ガラスがガタガタと鳴り、大きな問題が生じる危険があります。

上記のレバーと四分儀の代わりに、特に駆動力が必要で速度を犠牲にする場合は、回転ロッドを作動させるウォームアンドピニオンを使用することがあります。

しかし、実際には、どうしてもウォームアンドピニオンが必要な場合を除き、レバーギアが好まます。ピニオンがウォームに対して摩耗して、しばらくすると、わずかな不快な「遊び」が発生することがほぼ確実だからです。


ウォーム(上の棒)とピニオン(下の歯車)の組み合わせ
(ウォーム(上の棒)がガラス窓を押すことで窓が開く。)



ラック(下の棒)とピニオン(上の歯車)の組み合わせ
(ラック(下の棒)がガラス窓を押すことで窓が開く。)

ここまでは、垂直の窓ガラス(側窓)に関して説明しましたが、屋根やその他のヒンジ付き換気装置についても同様です。

一斉開閉装置の強度は、開閉する窓ガラスの重量に合ったものにすることを忘れてはいけません。

窓ガラスが重くバランスが崩れやすいほど、操作に必要な力は大きくなります。

ロッドに埋め込まれたキー溝または止めねじのいずれかによって、セットオープンがロッドに沿ってしっかりと固定されているよう注意する必要があります。そうしないと、セットオープンの一部がわずかに位置を変える可能性があります。

この場合、すべての換気窓、すべての部品が同時に閉じなくなります。フレームに力がかかって歪み、大きな不都合が生じることとなります。

換気窓の一斉開閉を実現するために、さまざまなメーカー会社がさまざまな工夫をしていますが、通常、上記のシステムが最も有利であるとして採用されています。

時には、チェーン ギアによって操作者が換気装置を一斉に開閉することも可能ですが、芝刈り機、牽引エンジン、またはあらゆる種類の動力を伝達するチェーン ギアを扱う経験が豊富な人なら、園芸施設にそれを導入することに躊躇するでしょう。


一斉開閉ギアの使用

一斉開閉のギアは慎重に使用する必要があります。

通常、垂直の窓ガラス(側窓)に簡単に手が届く大きさの小規模や中規模のハウスでは、一斉ギアは役に立たないどころか悪影響を及ぼします。

風向きの影響やハウス内の特定の場所の植物を外気の直撃から護る必要があるため、特定の換気窓だけを開けて、近くの換気窓は閉じたままにしたほうが良いことがよくあります。

一斉開閉ギアを使用する場合は、一定数の窓ガラスを同時に同じだけに開けることになります。

垂直の窓ガラス(側窓)が通路から少し離れていて、手が窓ガラスに届くにはブドウを植えたボーダーを踏む必要がある場合、促成栽培ハウスの栽培ベッドが 4 フィートまたは 5 フィート幅の場合、ハウスの栽培ベンチが通路と窓ガラスの間にある場合は、長くて扱いにくいセットオープンを各窓ガラスに設置するか、または、より望ましいのは、一斉ギアを使用するべきです。

連続する複数の換気用の窓ガラスをまとめてフレーム化することもあります。

この場合、一斉ギアは個別の窓ガラスと同じ方法でフレームに取り付ける必要があります。開口部のベアリングが少なすぎると、フレームがどうしても歪んだりねじれたりします。

前壁にある垂直の換気窓では、窓ガラスをまとめてフレーム化することは、将来的に窓ガラスを個別に開く可能性があるので、好ましくありません。

このことは屋根の換気装置(天窓)には当てはまりません。屋根の換気窓を個々に開閉する必要性はほとんどないからです。

通常、1 つの用途に限られる、仕切りのない長い園芸施設を除き、上部または下部の換気窓を約 20 ~ 25 フィート(6 ~ 7.5 m)以上にわたって同時に開くような換気はお勧めできません。

2025年1月14日火曜日

19世紀末の園芸施設:28. 誘引ワイヤー

    現在のトマト栽培の商業温室では誘引してつるおろしをしていく温室独自の仕立てが確立されていますが、19世紀の温室では庭での方法を素直に持ち込んだようで面白かったです。当時、温室独自と呼べるのはガラス面近くに誘引する点でしょうか。ガラス面近くだと温度変化が激しそうですが、受光を最優先で考えたんでしょうね。


HORTICULTURAL BUILDINGS.  By F. A. FAWKES. (1881)

誘引ワイヤー

ガラス温室の内部に取り付ける誘引棒、誘引ワイヤーは3種類に分けられます。すなわち、、屋根用、後壁(立て掛け式ハウスの場合)などの壁用、屋根や壁で支えられていない独立タイプです。

これらは、垂直 (サッシ バー(窓の桟)と平行)に固定するか、水平 (サッシ バーに直角)に固定するか、あるいは垂直と水平両方に固定する場合があります。

鉄製の誘引棒がよく使用されますが、その厚みによってはひっぱりをかけずに棒だけで支えることができ、長さに関係なくしっかり誘引できます。しかし、鉄製の棒は高価で扱いにくく、重く、通常誘引する植物が必要とする力に比べて過大で釣り合いが取れていません。

バーミンガムのワイヤ ゲージ 12 番程度の亜鉛メッキの鉄線は、適切なひっぱりを間隔を置いてかければ支えにできます。軽くて安価で、必要な強度があり、ほとんどの誘引に使えます。

垂直のワイヤー

ガラス面の直下に誘引する必要があるブドウ、メロン、キュウリなどの場合は次の配置が最も簡単で有利であることがわかります。

(立て掛け式の)ハウスの片流れの屋根で、主要な垂木とそれに対応するマリオン(方立、建物の開口部に設ける垂直な部材。)が 4 ~ 5 フィート (1.2~1.5 m) 離れており、中間のサッシバー(窓の桟)が 10 インチ (25 cm) ~ 1 フィート (30 cm) 間隔だとします。

1 本のワイヤーを各サッシバーと垂木と平行にし、約 10 インチ (25 cm) 下に置きます。
これを行うには、2 本の平らな鉄棒を縦方向にして、間隔​​を置いて後壁と前壁に必要な高さで固定し、後壁では壁に穴をあけて留め、前壁では各マリオン(方立)にボルトで固定します。

この 2 本の平らな鉄棒に対して、間隔をとってサッシ バーに取り付けたねじのワイヤーガイドのくぼみにワイヤーを通して固定し、端は通常の締め付け器具「raidisseur(鉄線張り器)」(図 70 を参照)のソケットの右ねじと左ねじ、または長いねじとバックナットによってワイヤーの長さを調整して張ります。


垂直ワイヤーの取り付けは多分こんな感じ

この方法はシンプルで、木や鉄の骨材の塗装も簡単にできますし、構造的にもしっかりしたテンションロッドとして機能し、後壁と前壁の横方向にかかる力にも対抗するのに役立ちます。


図 70 raidisseur(鉄線張り器)

ハウスが片流れ屋根ではなく両屋根の場合、鉄棒は各側面のマリオン(方立)にしっかりと固定し、ワイヤーは棟板にねじ込まれたアイまたは棟の下に吊り下げられた 3 番目の平らな鉄棒の穴に通した後、その間に張ります。鉄棒またはアイはガラス面から適切な距離にとるように注意してください。

この方式なら、庭師はこのバーに沿ってワイヤーを動かしたり、いろいろな方法でグループにまとめたり、完全に取り外したり、交換したりといった作業を非常に簡単にできることがわかります。

両屋根ハウスのワイヤーを調整しなくてもよい場合は、縦方向のバーの 1 つを省略し、その側のワイヤーは木組み(木骨部材)に直接固定することもできます。

もちろん、さまざまな形状や外観のハウスにあわせてこのシステムは調整が必要でしょうが、上記の説明はほとんどの場合に参考になるものです。

時には3 本の平行な垂直ワイヤーを各マリオンにねじ込んだ留め具を使って X 字型に張ることがあります。この場合の留め具には両端と上部部材の中央に穴があり、幅は 18 インチなので、ワイヤーを 9 インチ (22.5 cm) 離して張ることができます。

この方法は明らかに前述の配置方法ほど強力ではなく信頼性も高くありません。

水平のワイヤー

サッシバー(窓の桟)と直角の向きにワイヤーを張ることもありますが、その場合、屋根の骨材に簡単に塗装できないほか、横方向の力への対抗力がないので、サッシバーと平行のワイヤーほど有利ではないことが一般的です。

サッシバーに直角と平行に(縦横に)ワイヤーを張る場合も時々みかけますが、そうすると屋根に上がって修理などを行うのが難しく、余計な費用がかかる上に、​​あえてそうする目立った利点もないため、推奨しかねます。

温室の後ろの壁で果樹やその他の樹木を支える必要がある場合、壁に水平ワイヤーを約 10 ~ 12 インチ (25~30 cm) 間隔で張り巡らせれば簡単に誘引を行うことができます。各ワイヤーは、一方の端をステープルで固定し、もう一方の端を「raidisseur(鉄線張り器)」またはその他の締め付け方法 (上記に詳述) で固定し、壁に約 10 フィート (3 m) 間隔で打ち込んだガイド アイにワイヤーを通していきます。

張り巡らすことができるワイヤーの長さは、末端の留め具の強度によって異なりますが、通常 100 ~ 150 フィート (30~45 m) までの長さであれば簡単に張り巡らすことができます。

片流れ屋根のモモ栽培ハウスでは後壁面にワイヤーを張ることができるのが普通ですが、ブドウの木は後壁面にワイヤーを張っても必ずしも利点があるわけではありません。

桃の木は一般に幹がブドウほど長くなく、ブドウの木ほど樹がハウスに入射する太陽光線を遮ることもないからです。

固定支柱

屋根や壁で支えのないハウス内でエスパリエなど樹木を仕立てる必要がある場合、必要な高さの錬鉄製の支柱を間隔をあけて地面に打ち込むかレンガ部分に固定し、この支柱に約 10 インチ(25 cm) 間隔で穴を開けてワイヤーを通すことにより、木を誘引して仕立てることができます。

もちろん、このようなワイヤー1本ごとに両端に2 つの強力な支柱が必要であり、そのうちの 1 つにワイヤーを固定して、もう 1 つの端に「raidisseurs 」などで張力をかけます。

この方法は、立て掛け式のモモハウスなどの栽培施設で多用されています。そこでは、前壁のボーダーに植えられた樹木の幹があまり伸びないように、また、補充用の樹木が後壁に沿って仕立てられているため、屋根全体にワイヤーを張ることは望ましくありません。


誘引ワイヤーを配置するのに次のような方式を時々見かけますが、ここではその否定的な面についてのみ言及しましょう。

その方式とは、ハウスの奥行き方向に対して横向きに、間隔を置いて垂直のトレリスを固定し、各トレリスにアーチ型の通路を設けることで、通路用のスペースを確保する方法です。

このようなトレリスに誘引された木は、ガラス面へと伸びてゆき、ハウスの奥行き方向に一連の樹木の仕切りを形成します。

もちろん、この方法は、通常の方法 (つまり、屋根や前壁に平行に沿った平面トレリス) で仕立てられた場合よりも広い領域を活用できます。ハウスが南向きの立て掛け式で傾斜屋根の場合、後壁が葉影であまり覆われない箇所を一定の間隔で確保できます。

しかし、木々の間隔が狭い場合 (そうでない場合、スペースを節約する利点が失われます)や妻面が南を向いているハウスの場合は、あるときは木々が互いに影を落とし、あるときは太陽は端だけに当たることは明らかです。

どちらの場合も、太陽光線の恩恵を十分に受けることができません。

さらに、枝のほとんどはガラスから遠く離れていることになり、後壁に日が当たるのは正午のわずかな時間だけです。

ハウスが立て掛け式の片流れ屋根でなく、南北棟または東西棟の両屋根ハウスでも同様の不都合が生じるでしょう。

トレリス

木製で塗装された格子状のトレリスは、グリーンハウスの後壁でつる植物を支えたり、小さな壁面トレリスにしてむき出しのレンガを隠したり、栽培ベンチの前の温水パイプを隠したりできるので便利です。

ただし、トレリスは慎重に使用し、修理、清掃、塗装などのために持ち運び可能な大きさのパネルや部材にしておいて簡単に取り外せるようにする必要があります。

木製のトレリスは注意を怠らず定期的に手入れしないと、ガラス温室の貴重な栽培植物に害を及ぼす虫の巣になる可能性があります。

展示鑑賞用のハウスで使用するトレリスは、きれいな幾何学模様にすれば、多くの場合、効果的です。そして、持ち運び可能なものにしておけばいつでも利用することができます。



2025年1月6日月曜日

19世紀末の園芸施設:27. 塗料

   体に悪い鉛白から体に良さそうな亜麻仁油まで、いろいろな材料を使って温室に塗装がされていたことを知りました。今も温室の部材の維持管理は大切ですが、それよりずっと手入れの手間がかかってそう。


HORTICULTURAL BUILDINGS.  By F. A. FAWKES. (1881)

塗料

木材」に関する記事と「鉄骨ハウスと木骨ハウス」の項で、木材が使用に適した状態にあり、必要な加工を施したなら、何らかの不浸透性の物質でコーティングして湿気の害から守る必要があると述べました。このために使用される最も一般的な物質は「塗料」です。

塗料は粘液質で空気にさらされると硬くなる性質をもちます。
すべての塗料の主成分は鉛白ですが、これは一般に鉛の水和酸化物である炭酸鉛です。
亜鉛白は淡色に使用される別種の金属塗料ですが、鉛白よりも粘り気が弱いです。

塗料にはいくつかの調合物が加えられています。
Carson の防錆塗料には、(顔料を除く)ベース材料として、すりつぶしたガラス瓶、鉛精錬から得られるスラグのスコリア、あるいは焼いたカキ殻が使用されています。

ほかにも鉄酸化物塗料、鉄珪酸塩塗料などなどがあります。


塗布にあたって最適な媒体は良質の亜麻仁油です。
屋外の塗装では、テレピン油はこの油より水に弱いため、できるだけ使用しないでください。

ただし、白色にする必要があり、鉛白を使用する場合は少量の植物性黒鉛を加えることがよくあります。
黒鉛を入れるのは奇妙に思えるかもしれませんが、これにより鉛白と油の塗料が変色するのを防ぎます。

少量の乾燥剤(酸化鉛)は塗料をより硬く、より速く乾燥させます。

油材をテレピン油に変えた塗装(通常は室内の仕上げ塗装にのみ使用する。)は、「平滑化」作業と言われます。
このような平らに滑らかになった表面では光は不規則に反射します。


木材を十分に乾燥させて、完全に乾くまでは塗料を塗ってはいけません。

木材は必要な形に仕上げたら、すぐに節どめ、下塗りをして、隙間を塞ぎます。

「節どめ」は、赤鉛と接着剤を同量の水と混ぜた混合物を熱いうちに塗布して節目を塞ぐ作業です。すぐに使える状態になっている「節どめ材」と呼ばれる製品を使用することもあります。

「下塗り」は、鉛白と少量の赤鉛に亜麻仁油を混ぜたもので薄く塗ることです。

隙間を塞いだ後、すなわちパテで欠けや穴を補修した後、さらに濃い色で下塗りします。その後、加工・塗装した木材を固定すればガラスを張る準備が完了です。

工場で加工された木材は、下塗りをせずに目的地に送ってはいけません。

雨に当たらなくても、湿気は木材の表面で凝縮し木の組織に入り込みます。そこで塗装されれば、水は閉じ込められ蒸発も妨げられるので、最終的に木材を腐らせ破壊してしまいます。

いずれにしても、木板の底面やレンガ造りに取り付ける木工品のレンガとの接触面は、取り付ける前に十分塗装する必要があります。
ガラスをはめ込んだ後、良質の油性の着色塗料を 2 度塗りします。
最後の塗りには、煮沸した亜麻仁油と煮沸していない亜麻仁油をほぼ同量混ぜたものを使ってもよいでしょう。

園芸向けに最適な仕上げの色はストーンカラー(石のような色)と白色です。

木目調のペイントやステイン、ニスを塗るのは、園芸上の見た目としては好ましくありませんが、花室や廊下において建築上望まれるなら、そういった塗装がされる場合もあります。実際、花室や廊下では植物は建築の添え物的なものだからです。

室内の木材は、つや消し塗装すると非常に見栄えがよい場合があります。特に、植物や花は、光沢のある塗装ではなく、光を吸収せず反射するような塗装の木材や骨組みが近くにある方が見栄えがすると考えられてます。ただし、塗装は湿気のある室内環境には適していないことを常に念頭に置いておく必要があります。

コンサバトリーにおいてマリオン(方立)やサッシ、鉄細工の装飾品が明るい青やチョコレート色で強調されているのを見るのは珍しいことではありませんが、これは明らかに残念なことで、構造(建物)ではなく中身(植物)を目立たせるべきであるという前提が忘れられています。

しかし、醜悪な趣味が存在する限り、明るい色の着色ガラスや青色やチョコレート色の塗装、その他の突飛な手段によって植物や花が台無しにされるのをコンサバトリーで目にする事例はなくならないでしょう。

園芸ハウスを定期的に塗装することは必要不可欠です。
園芸用の建物を取り巻く非常に厳しい気象条件から建築材料を保護することが真の節約となります。
建設時に 3 層から 5 層で塗装した場合は、屋外側は最低1年に1回 1層塗装(1回塗り)し、その後は 3 年ごとに屋外も屋内も 2層塗装(2回塗り)します。

新しいガラス板をはめ込むときは必ず、古いガラスを取り除いた後の木工部分とパテは、次の定期的な塗装まで放置せず、新しいガラス板をはめ込んだらすぐに塗装しなければなりません。
温水パイプは通常の方法で塗装できます。また、油性塗料が加熱されて乾燥していく際の匂いがしばらく残りますが、温室では住宅ほどの不快感は感じないでしょう。

パイプに光沢を持たせたい場合、ブランズウィックブラックと呼ばれる高価なワニス塗料が効果的です。または、煮沸した良質の油とごく少量の乾燥剤を混ぜた植物性の黒塗料を使用することもできます。
いずれにしても、臭いはそれほど長くは続かないと思われます。
臭いを完全に避ける必要があり、色がくすんでいても問題がない場合は、塗料から油を省いた顔料とターペン(テレピン油)を使用するか、またはパイプにジステンパー(水性塗料、例えば粉末状のチョーク (炭酸カルシウム) とウサギの皮の接着剤などのサイズ (ゼラチン) から作られる。)を塗布することができます。あるいは、パイプに黒鉛を塗ってもよいです。

ただし、この方法は必ずしも満足できるものではありません。かん水中に表面が濡れてしまった場合、パイプに再度黒鉛を塗らなければならないからです。

2024年12月31日火曜日

19世紀末の園芸施設:26. ガラス後半

  建物へのガラスの取り付け、特に優美な曲線の建物ではいろいろな留め方が工夫がされていたことがわかりました。が、結局、当時、温室はパテが1番といった結論になっとります。

100年後の1980年頃のガラス温室はパテ(融着物質)と留め具(クリップ)の併用で、ガラス板同士の重なりはありません。手入れが悪いと結構雨漏りします。ガラス自体は割れなければ、掃除すれば、輝きは40〜50年経つ現在でも保たれています。

これからは3Dプリンターにより、取り外し簡単で永久に1滴の水漏れもない、奇抜な形の温室が登場するかも?被覆材はガラスに限らないでしょうし、夢がありますね。

ちなみに私のトンネルのフィルムの留め具は19mm直管用のパッカーです。近くのホームセンター2軒回りましたが、どちらでも取り扱いがありませんでした。みなさん、パッカー使わないの?


HORTICULTURAL BUILDINGS.  By F. A. FAWKES. (1881)

ガラス

パテを使ったガラス張り

まずガラスの裁断について述べましょう。

サッシ枠のバーは通常垂直または屋根の傾斜と同じ方向になので、1 枚のガラスでサッシ枠のバーの全長にわたって被覆することはできないのは明らかです。水平方向にバーを入れずに、ガラスを「重ねて」張るのが通例です。

この重ね幅は約 1 インチを超えてはいけません。それを超えると、霜が降りた時に毛細管現象によって重なりの隙間に保持されていた水分が凍って、ガラスを割れるほどの力になります。さらに、重ねる幅が長いと、隙間に付着した汚れで見苦しくなることがあります。

屋根やハウスのどこでも、この重ね合わせが生じる部分は連続的で規則的なラインになるようにする必要があります。つまり、12 フィートの垂木がある片流れ(立て掛け式の)屋根に、約 2 フィートの長さのガラス板を使用するつもりなら、重ね合わせによって 5 本の連続的で規則的な重ね合わせのラインができるはずであり、互いに等距離に、そして棟と樋からも等距離にする必要があります。図必要?

両屋根、八角形屋根、などがこの片流れ屋根に接する場合も、「ラップ(重ね合わせ)」のラインは同じ高さで周回するようにする必要があります。

重なり部分に水分が保持されていて、その後、凍結によって破損を生じないようにするため、ガラスの裁断にはいくつかの方法が提案されています。

図 60,  61 は2つの裁断例を示しています。

 
図60, 61 ガラス裁断の色々な方法

最初の方法(図60)では、ガラスを交互に鋭角と鈍角でカットすることで、重なりができず、ガラスの端同志を「突き合せ」る方法になっています。その目的は、重なりがなく、したがって毛細管現象が起こらないので、どんな水分も滴り落ちて、まずは一方のサッシバーに流れ集まるようにすることです。

しかし、こういった方法が実用的でないことは自明です。

ガラスは常に同じ角度にカットできるわけではありません。ガラスが幅全体にわたってきちんと突き合わなければ、角度のずれた開口部が生じ、熱が急速に失われます。

さらに、ガラスは非常に鋭角にカットできない限り、水分はガラス板のわずかな隙間からも滴り落ちます。

2番目の配置方法(図61)は端が曲がった状態でカットされたガラスを使う方法です 。

これは水分がガラス板の中央へ流れるようにし、凝集した水分がガラス板の重なり部分から滴り落ちるのを防ぐことを意図しています。

しかし、ガラス板の上部が水平にカットされていて、その上に重ねたガラスの下面が上のガラス板の点線で示すように湾曲しているので、おのずと重なり部分が円の一部を形成することになり、不規則に毛細管現象が発生することになります。

そうすると、ガラスの中央部分は他の部分よりも重なりの厚みが大きくなっているので、必然的にそこに水がたまって、その水が凍結すればガラスの破損がほぼ確実に生じます。

この対策として、重なり部分において上下両方のガラス板のふちを下のガラス板に対する点線で示したのと同じ曲線にカットすれば、ある程度は克服できます。

しかし、これは実際には困難です。なぜなら、ガラスのふちに凸曲線を付けるように切断するのは簡単にできますが、凹曲線を付けるのは大変難しいからです。

たとえ凹曲線を付けたとしても、重なり部分に不規則に水が溜まる箇所が生じる可能性はゼロにはなりません。

ガラス板に関して重要なことは、重ね合わせ部分を確実に水平にすることです。


次の注意点は、パテとその使用箇所に関するものです。

園芸用の建物は厳しい気象条件と日射にさらされるため、パテは硬化し、ひび割れ、剥がれ、木材が露出して腐り、隙間から湿気や虫が入り込み、内部に水滴が落ちる傾向があります。

これを回避するため、多くの園芸家はガラス板をパテで埋め込んでいますが、上部にパテは使用せず、単に「スプリギング(バネ留め)」にするか、割りピンでガラスを押さえるだけにします。

この方法は、キュウリのフレームや小型の栽培温室などには適しているかもしれませんが、見た目は決して美しくありません。そのため、栽培だけでなく観賞目的で建てられたコンサバトリーや温室には適していません。

ただし、パテを適切に作って正しく使用すれば、これらをすべて回避できます。

良質の煮沸した亜麻仁油 (約 9 割) と獣脂 (約 1 割) を混ぜ、次に必要な粘度になるまで攪拌して十分に混ぜ合わせると、パテは硬化したり割れたりしにくくなります。

ガラスは正確にカットし、下部のパテにしっかりと埋め込む必要があります。そうすることで、下部のパテは溝とガラスの間に薄く均一な層を形成します。

ガラスは銅の鋲で「固定する」必要があります。

次に、上部のパテを均一かつ滑らかにカットする必要があります。多すぎず、かつ、パテは垂直の角度にカットするのではなく、かなり急角度の直角三角形の断面にします。そのために十分な量のパテを使いましょう。

図 62.—パテのカット断面。
表面にバリや割れ目が残っていないこと。水が溜まる心配がなく、パテは実用上十分な硬さがありながら、修理が必要なときにはナイフで切れるほど柔らかいこと。


パテが硬すぎてひび割れしないようにすることは、鉄骨のハウスでも木骨のハウスでも重要です。特に鉄とガラスの膨張と収縮に影響を受けて損傷するのはパテである確率が高いからです。

木材は、ガラスを張る前と後に徹底的に塗装する必要があります。

通常のパテが非常に硬くなった場合、苛性カリまたは苛性ソーダで短時間湿らせておけば柔らかくなって、パテを簡単に取り除くことができます。または、パテに硝酸または塩酸を塗ると、約 1 時間で柔らかくなります。

ガラス板の重なりにパテを塗るのは昔からよくある方法ですが、そうすればハウスは暖まりやすくなり、重なり部分が広いとガラスが割れるのを防ぐこともあります。しかし、これは見栄えが悪いだけでなく、屋根面の太陽光線を遮る面積が増えてしまいます。


パテを使わないでガラスを張る方法。

特許を取得しているパテを使用しない方法が数多くあります。主なものとして、Helliwelli Johnsonによる発明、Rendleによる発明、Shelleyによる 発明があります。

図 63 はHelliwell の方法でガラス張りした屋根の一部を示しています。

垂木は約 6 フィートの間隔で設置し、これに水平のガラス張り用のバーを固定しています。そこに、銅、真鍮、または亜鉛製のクリップを使ってガラス板を固定しています。

鉄骨の屋根では、クリップは鉄のアングルバー(山形鋼)にボルトで固定します。

Helliwell 氏は、大面積の屋根で非常に大きな正方形のロールガラスまたは鋳造ガラスを張る場合、Helliwell特製の垂直バーにガラス板を張るのが最も適している、と推奨しています。


図 63.— ヘリウェルのガラス張りの方法。

図 64 はこの垂直バーの断面を示しています。


図 64.-Helliwell のバーの断面図。


通常の垂木と棟木で亜鉛の垂直バーを支え、そのバーがガラスを支えます。

真鍮のボルトとナットでバーに銅製のキャップをねじ込んでガラス張りが完成します。

特許権者は、この方法について次のように主張しています。

—この方法は円形であれどんな形でも、鉄骨屋根にも木製屋根にも使用できます。

—木工作業が省力できます。

—パテは不要です。

—腐りやすい材料が露出しません。

—外側の塗装は不要です。

—ガラスは簡単に取り外して洗浄し、再度取り付けることができます。

—膨張や収縮による破損がありません。

—ガラスの縁に隙間ができません。

—ガラスがガタガタしたり緩んだりしません。

—結露による水滴の落下がありません。


Johnson の方法は、ガラスの取り付けに圧縮性のある亜鉛(できれば、銅)のチューブを使用しています。その断面は図 65 のとおりです。弾力性のあるチューブがガラスを受け留めてクリップで固定します。

ガラス板を真鍮のクリップで固定し、コッター(くさび)またはネジで所定の位置に固定します。こうすれば、コッターやネジは簡単に取り外すことができるので、必要に応じてガラスをスライドさせれば付けたり外したりが自由にできます。

以下のような利点が主張されています。

- パテを使用しない完全防水のジョイント。

- 膨張と収縮に耐え、破損が防止されます。

- 内側も外側も塗装は不要。

- 優れた耐久性。

- 故障の可能性がほとんどありません。

- 光と熱を比較的よく通します。

- 曲げガラス不使用。

- 軽快ですっきりとした外観。


図65.—Johnsonの圧縮性のあるガラス管の断面図。


Rendle の方法は以下のとおりです。

1)水平の亜鉛または銅のバーを、通常の方法で垂木で支えられた母屋に固定します。

これらのバーはそれぞれ断面が異なります。棟に取り付けるバーは逆 U 字型断面、中間のバーは長い S 字型断面で、上部の部材はS字の下部まで直線で続いています。下部のバーは J 字型断面です。

これらのバーには穴があいていて、水が逃げるように下端から間隔を置いてカットされています。

ガラスは、上端をバーにできるだけ押し込むと下端がバーに収まるようにカットされています。ガラスは垂直に 1 〜 1.5 インチ重ねます。


図 66.—Rendle の「コンビーネーション」方式のガラス張り方法。
A 水平バー。C ガラス。F 垂直バー。
a b 湿気を下のガラスから外に逃すための穴。


2)もう1つの方法は「コンビネーション」と呼ばれます。

これは垂直ジョイントを除けば1)と似ています。ガラスを重ねる代わりに、垂直バーを使用します(図66を参照)。

このバーには溝がきってあり、そこにガラスが嵌め込まれます。バーの溝は、ガラスの内側に凝縮した水分をガラス下から外に排出します。

バーはガラスの強力な支持部となっているため、4フィートまでの長さのガラスを使用することができます。

発明者はこの方法を平らな屋根や非常に広い屋根といった大きなガラス板を使いたい場合に推奨しています。


3)また別の方法は「アクメ」と呼ばれます(図67を参照)。

このシステムは、次の点で前のシステムと異なります。

ガラスを固定するクリップが狭いのを勘案して重なりを大きくとっています。

クリップがないぶん、雨水はスムーズに流れます。

垂直バーの溝は四角形であるため、水平バーのスロットが埋まり、ガラスに対する強度が増します。

母屋は狭くなっています。


図67。Rendle の「Acme(アクメ)」ガラス張りシステム。
C 水平バー。E 垂直バー。G ガラス。J 木製母屋。
K 木材を使わない溝付き鉄製母屋。


木材の代わりに、溝付きの鉄製の垂木を使用することができます。

Rendle 氏は、このシステムについて、次のような利点があると述べています。

—メンテナンスと修理のコストが 80 ~ 90 パーセント削減されます。

—ガラスはどの方向にも「遊び」があるため、収縮や膨張による破損はありません。

—強風や列車の通過による振動による破損はありません。

—ガラスの取り付け時間は従来の 4 分の 1 で、すぐに交換できます。

—凝縮した水蒸気による滴下はありません。

—パテ、セメント、フェルトなどは一切不要です。

—円形の屋根に直線のガラス板をはめ込むことができます。


Shelleyの方法は冷却鋳鉄の棒を用います。このバーのフラップにガラス板が滑り込む溝が刻まれています(図 68 および 69 を参照)。

溝には間隔を置いてストッパーが設けられており、ガラスが所定の位置に嵌め込むときに、ガラスが吹き飛んだり溝から外れたりするのを防ぎます。

溝の上端とガラスの間には、ガラスを固定するための弾剛性のバルカナイトコード(硬質ゴムでできたコード)が配置されています。


図 68. — Shelley の展張バーの断面図。
a a ガラス。
b バルカナイト(硬質ゴム)(可動式)。
c 特許取得済みのストッパー。
d バーに固定されたバルカナイト
e 湿気を逃がす溝。
f バーを屋根に固定するための突起。


図69.—Shelley のガラスの取り付けバーの断面図。
ガラスの重なりが見える。


バーには、屋根の母屋にねじ止めするための耳が鋳造して付けられています。また、バーの下端には、下部のガラス板を固定して、下の屋根部分や雨どいにガラス板が滑り落ちないようにするための肩が付けられています。

ガラスを更新、修理、また取り外す場合は、ガラス板を溝の位置で持ち上げてストッパーから外し、ガラス板の両端が交互にはずれるように横方向に動かす必要があります。

ただし、ストッパーの特徴を知らなければ、ガラスを取り外すのは容易ではありません。

垂木は必要ありませんが、母屋は約 6 フィートの間隔で設置する必要があります。

特許権者はこの方法に次のような利点があると主張しています。

—大気やその他の影響にさらされて腐敗しやすい材料を使う必要がない。

—木材をほとんど使用しなくてすむ。

—母屋は約 8 (6?)フィート間隔で設置すればよい。

—ガラスの取り付けが簡単かつ迅速にできる。

—パテが不要。

—塗装は任意でよい。

—ガラスが吹き飛ばされることがない。

—この方法を知らない人がガラスを外すことは困難なので、屋根はある程度侵入の防犯になる。

—膨張や収縮による破損がない。

—どのような角度への取り付けにも同じようにできる。

—亜鉛不使用。

—円形の屋根に平らなガラスを張ることができる。

こういったパテを使わないガラス張り方法は、鉄道駅、展示場、浴場、市場、織物工場、倉庫などの屋根には有利な施工方法ですが、園芸用栽培ハウスに関してはパテを使ったガラス張りに代わる方法はいまだ発明されていないことが分かっている。

全体として見ると、世界は非常に保守的であり、どんな方法でも、それがいかに優れていても、既存の方法がどれほど劣っていても、それを置き換えることはなかなか難しいものです。

パテを使ったガラスの張り付けが園芸用の建築物では今でもその独自の地位を維持しているのは、それ以外の方法はどれも園芸家の要求をパテ以上に満たすものがないからです。

パテを使わないなら、次の2つの方法のどちらかを採用する必要があります。ガラスを金属とくっ付けてある程度の「遊び」を持たせるか、ガラスを何らかの柔軟な物質とくっつけるかのいづれかです。

前者の場合、熱が逃げやすく、建屋を適切に燻蒸できず、毛細管現象によって水が溜まる隙間が多くなり、その後この水が凍結してガラスが頻繁に破損する可能性があります。さらに、水が溜まるこの隙間に虫が住みつくこともあります。

2 つ目の方法では、たとえ使用される弾力性の物質が屋根を密閉するように十分に調整して施工されていたとしても、暖房温室特有の厳しい温湿度の変化の影響を受け、弾力性物質が急速に破壊される可能性があります。その場合、それを更新する費用と手間はおそらくパテを使った場合よりもはるかに大きくなるでしょう。

確かに、ガラスの取り付け部となる鉄筋、垂木、棟木などといった構造材の大部分は建屋内にあります。

しかし、屋根の外側に板やはしごを設置しない場合、この利点はデメリットとなる可能性もあります。すなわち、ハウス(温室)の内側からガラスを張ることができない場合もあるということです。特にブドウ用ハウスのガラスの張り替えは、ブドウの木がガラス面の近くで屋根全体を覆っている場合などには内側から施工できません。

パテを使わないガラス張りの主な利点の 1 つは、ガラスを素早く簡単に出し入れできることです。これもまた、利点がデメリットとなる可能性があります。なぜなら、そのような場合、鍵やその他の侵入防止措置があっても、数枚のガラスを子供でも 5 分で外して中に入って貴重な果実を持ち出し、再度ガラスをはめ直すことができるからです。


パテなしで留め具でガラスを張る方法の中には、パテでガラスを張るよりもコストがかかるものもあります。

また、ガラスの重なり部分が非常に大きくなってしまう場合もあります。

重なりが大きいと、そこに湿気が溜まりやすくなり、汚れも溜まりやすく、見栄えが悪くなり、植物が日射で焼けやすくなります。

園芸家は、パテでガラスを張る手間がなくなればとても喜ぶでしょう。しかし、留め具によるガラス張りのさまざまな方法を注意深く観察し、長期間にわたって経験した結果、適切な材料を使用し、慎重に作業すれば、栽培目的の園芸用建物にはパテでガラス張りするのが最善だとわかります。園芸用建物におけるガラスの重要性は当然、非常に大きいので、ガラスに関する栽培上の科学的知見を無視するわけにはいきません。

[近況] ”自然に還る”のキッチンガーデン:かすかに秋の気配

 9月に入っても35℃超え、最低気温も27℃と暑いです。 ただ、熱湯の中にいるような空気感は、日陰で風があれば、やわらいできたような。。。いや、単に、自分が暑さに順化しただけかも(笑) 夕方なら草刈りする気力が、ようやく戻ってまいりました。暑さで弱っている雑草は比較的抜きやすいで...