2025年1月14日火曜日

19世紀末の園芸施設:28. 誘引ワイヤー

    現在のトマト栽培の商業温室では誘引してつるおろしをしていく温室独自の仕立てが確立されていますが、19世紀の温室では庭での方法を素直に持ち込んだようで面白かったです。当時、温室独自と呼べるのはガラス面近くに誘引する点でしょうか。ガラス面近くだと温度変化が激しそうですが、受光を最優先で考えたんでしょうね。


HORTICULTURAL BUILDINGS.  By F. A. FAWKES. (1881)

誘引ワイヤー

ガラス温室の内部に取り付ける誘引棒、誘引ワイヤーは3種類に分けられます。すなわち、、屋根用、後壁(立て掛け式ハウスの場合)などの壁用、屋根や壁で支えられていない独立タイプです。

これらは、垂直 (サッシ バー(窓の桟)と平行)に固定するか、水平 (サッシ バーに直角)に固定するか、あるいは垂直と水平両方に固定する場合があります。

鉄製の誘引棒がよく使用されますが、その厚みによってはひっぱりをかけずに棒だけで支えることができ、長さに関係なくしっかり誘引できます。しかし、鉄製の棒は高価で扱いにくく、重く、通常誘引する植物が必要とする力に比べて過大で釣り合いが取れていません。

バーミンガムのワイヤ ゲージ 12 番程度の亜鉛メッキの鉄線は、適切なひっぱりを間隔を置いてかければ支えにできます。軽くて安価で、必要な強度があり、ほとんどの誘引に使えます。

垂直のワイヤー

ガラス面の直下に誘引する必要があるブドウ、メロン、キュウリなどの場合は次の配置が最も簡単で有利であることがわかります。

(立て掛け式の)ハウスの片流れの屋根で、主要な垂木とそれに対応するマリオン(方立、建物の開口部に設ける垂直な部材。)が 4 ~ 5 フィート (1.2~1.5 m) 離れており、中間のサッシバー(窓の桟)が 10 インチ (25 cm) ~ 1 フィート (30 cm) 間隔だとします。

1 本のワイヤーを各サッシバーと垂木と平行にし、約 10 インチ (25 cm) 下に置きます。
これを行うには、2 本の平らな鉄棒を縦方向にして、間隔​​を置いて後壁と前壁に必要な高さで固定し、後壁では壁に穴をあけて留め、前壁では各マリオン(方立)にボルトで固定します。

この 2 本の平らな鉄棒に対して、間隔をとってサッシ バーに取り付けたねじのワイヤーガイドのくぼみにワイヤーを通して固定し、端は通常の締め付け器具「raidisseur(鉄線張り器)」(図 70 を参照)のソケットの右ねじと左ねじ、または長いねじとバックナットによってワイヤーの長さを調整して張ります。


垂直ワイヤーの取り付けは多分こんな感じ

この方法はシンプルで、木や鉄の骨材の塗装も簡単にできますし、構造的にもしっかりしたテンションロッドとして機能し、後壁と前壁の横方向にかかる力にも対抗するのに役立ちます。


図 70 raidisseur(鉄線張り器)

ハウスが片流れ屋根ではなく両屋根の場合、鉄棒は各側面のマリオン(方立)にしっかりと固定し、ワイヤーは棟板にねじ込まれたアイまたは棟の下に吊り下げられた 3 番目の平らな鉄棒の穴に通した後、その間に張ります。鉄棒またはアイはガラス面から適切な距離にとるように注意してください。

この方式なら、庭師はこのバーに沿ってワイヤーを動かしたり、いろいろな方法でグループにまとめたり、完全に取り外したり、交換したりといった作業を非常に簡単にできることがわかります。

両屋根ハウスのワイヤーを調整しなくてもよい場合は、縦方向のバーの 1 つを省略し、その側のワイヤーは木組み(木骨部材)に直接固定することもできます。

もちろん、さまざまな形状や外観のハウスにあわせてこのシステムは調整が必要でしょうが、上記の説明はほとんどの場合に参考になるものです。

時には3 本の平行な垂直ワイヤーを各マリオンにねじ込んだ留め具を使って X 字型に張ることがあります。この場合の留め具には両端と上部部材の中央に穴があり、幅は 18 インチなので、ワイヤーを 9 インチ (22.5 cm) 離して張ることができます。

この方法は明らかに前述の配置方法ほど強力ではなく信頼性も高くありません。

水平のワイヤー

サッシバー(窓の桟)と直角の向きにワイヤーを張ることもありますが、その場合、屋根の骨材に簡単に塗装できないほか、横方向の力への対抗力がないので、サッシバーと平行のワイヤーほど有利ではないことが一般的です。

サッシバーに直角と平行に(縦横に)ワイヤーを張る場合も時々みかけますが、そうすると屋根に上がって修理などを行うのが難しく、余計な費用がかかる上に、​​あえてそうする目立った利点もないため、推奨しかねます。

温室の後ろの壁で果樹やその他の樹木を支える必要がある場合、壁に水平ワイヤーを約 10 ~ 12 インチ (25~30 cm) 間隔で張り巡らせれば簡単に誘引を行うことができます。各ワイヤーは、一方の端をステープルで固定し、もう一方の端を「raidisseur(鉄線張り器)」またはその他の締め付け方法 (上記に詳述) で固定し、壁に約 10 フィート (3 m) 間隔で打ち込んだガイド アイにワイヤーを通していきます。

張り巡らすことができるワイヤーの長さは、末端の留め具の強度によって異なりますが、通常 100 ~ 150 フィート (30~45 m) までの長さであれば簡単に張り巡らすことができます。

片流れ屋根のモモ栽培ハウスでは後壁面にワイヤーを張ることができるのが普通ですが、ブドウの木は後壁面にワイヤーを張っても必ずしも利点があるわけではありません。

桃の木は一般に幹がブドウほど長くなく、ブドウの木ほど樹がハウスに入射する太陽光線を遮ることもないからです。

固定支柱

屋根や壁で支えのないハウス内でエスパリエなど樹木を仕立てる必要がある場合、必要な高さの錬鉄製の支柱を間隔をあけて地面に打ち込むかレンガ部分に固定し、この支柱に約 10 インチ(25 cm) 間隔で穴を開けてワイヤーを通すことにより、木を誘引して仕立てることができます。

もちろん、このようなワイヤー1本ごとに両端に2 つの強力な支柱が必要であり、そのうちの 1 つにワイヤーを固定して、もう 1 つの端に「raidisseurs 」などで張力をかけます。

この方法は、立て掛け式のモモハウスなどの栽培施設で多用されています。そこでは、前壁のボーダーに植えられた樹木の幹があまり伸びないように、また、補充用の樹木が後壁に沿って仕立てられているため、屋根全体にワイヤーを張ることは望ましくありません。


誘引ワイヤーを配置するのに次のような方式を時々見かけますが、ここではその否定的な面についてのみ言及しましょう。

その方式とは、ハウスの奥行き方向に対して横向きに、間隔を置いて垂直のトレリスを固定し、各トレリスにアーチ型の通路を設けることで、通路用のスペースを確保する方法です。

このようなトレリスに誘引された木は、ガラス面へと伸びてゆき、ハウスの奥行き方向に一連の樹木の仕切りを形成します。

もちろん、この方法は、通常の方法 (つまり、屋根や前壁に平行に沿った平面トレリス) で仕立てられた場合よりも広い領域を活用できます。ハウスが南向きの立て掛け式で傾斜屋根の場合、後壁が葉影であまり覆われない箇所を一定の間隔で確保できます。

しかし、木々の間隔が狭い場合 (そうでない場合、スペースを節約する利点が失われます)や妻面が南を向いているハウスの場合は、あるときは木々が互いに影を落とし、あるときは太陽は端だけに当たることは明らかです。

どちらの場合も、太陽光線の恩恵を十分に受けることができません。

さらに、枝のほとんどはガラスから遠く離れていることになり、後壁に日が当たるのは正午のわずかな時間だけです。

ハウスが立て掛け式の片流れ屋根でなく、南北棟または東西棟の両屋根ハウスでも同様の不都合が生じるでしょう。

トレリス

木製で塗装された格子状のトレリスは、グリーンハウスの後壁でつる植物を支えたり、小さな壁面トレリスにしてむき出しのレンガを隠したり、栽培ベンチの前の温水パイプを隠したりできるので便利です。

ただし、トレリスは慎重に使用し、修理、清掃、塗装などのために持ち運び可能な大きさのパネルや部材にしておいて簡単に取り外せるようにする必要があります。

木製のトレリスは注意を怠らず定期的に手入れしないと、ガラス温室の貴重な栽培植物に害を及ぼす虫の巣になる可能性があります。

展示鑑賞用のハウスで使用するトレリスは、きれいな幾何学模様にすれば、多くの場合、効果的です。そして、持ち運び可能なものにしておけばいつでも利用することができます。



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