2024年1月14日日曜日

19世紀末の園芸施設:2. 歴史と社会的側面

 19世紀末の園芸施設・温室そのものに特化した本です。

「はじめに」の後半は温室の歴史と社会的側面について書かれています。
温室の歴史と社会生活での効用が高らかにうたわれています。19世紀の急速な科学の進展と産業革命による技術の普及、強大な大英帝国の高揚感が伝わってきます。
ここに書かれている顕微鏡による植物観察については、岡田斗司夫先生がYoutubeで解説しておられましたっけ。当時の顕微鏡は屋敷1軒分くらいの値段がしたけれども、お金持ち(ハイソな方々、貴族?)はこぞって買って観察・スケッチするのが高尚な趣味だったとか。天皇ご一家がこぞって生物観察をなさっているのはその名残でしょうか?
貧乏人の私は温室も顕微鏡もないので、本書を読んで想像だけして楽しみます。

Horticultural Buildings. By F. A. FAWKES.  London, 1881


歴史

植物の人工栽培技術は園芸施設(温室)に関する最近の進歩によって頂点に達していますが、歴史的に3つの発展段階に分けることができます。

第 1 段階では、明らかに、冬の間、美しく繊細な常緑樹を霜から守りたいという願望によるものでした。これに続く自然な流れとして、原産地の植物を土壌や気候の異なる私たちの国に順応させる技術を完成させたいという願望が生まれました。そしてさらに、果物の成熟や花の開花を人工的な手段で実現したいという願望が生まれました。初期の段階では、単に寒さから保護することが考えられ、ガラスはあまり重視されていませんでした。レンガか石で作った壁に間隔をあけて窓を設け、それが光を取り入れる唯一の手段でした。

第 2 段階では、壁にもう少し多くの窓が作られ、屋根の一定部分をガラス張りにし、建物内にストーブを設置する(そのためこういった建物は「ストーブ」と呼ばれています)か、または建物の下に燃えている熾火の容器を置く(従って、ストーブの古い言い方「ハイポコーストゥム」〜「下」と「燃える」を意味するギリシャ語)などの人工暖房方法を採用する建物が登場しました。

第 3 段階では、屋根と側面に最大限ガラスを使用することで、光線の不足を最小限に抑えた、促成栽培に適切な温室を実現しました。 温度、光、換気を精密に操作するための設備;そして室内暖房や栽培ベッドに底熱を埋め込むなどのさまざまな設備も利用できるようになりました。


アメリカ大陸の発見と喜望峰を巡るインド航路の商業的成功は、ガーデニングに弾みを与え、熱帯の国から受け取った豊かで珍しい果物や花を保温し栽培するために温室を建てる必要が生じました。

中国人は以前から温室に親しんできましたが、彼らの知識がどこまで遡れるのかは不明です。

ラウドン氏によると、私たちが所有した最初の温室は、記録では1619年頃にハイデルブルクで、プファルツ選帝侯おかかえの建築家兼技師のソロモン・デ・カウスによって建てられたものです。

この温室はもともと果樹のオレンジを寒さから守るために建設されました。 

この時代から 17 世紀末までの間、ギンバイカ、スウィート ベイ、ヒース、そしてオレンジ類は、1 つまたは複数の垂直な壁面にのみ窓が設けられた温室で寒さから守られていました。そのような防寒目的では大量の光は必要ないと考えられていました。

1684 年にレイは我が国のチェルシーの薬剤師の庭にある温室について紹介しています。

しかし、18 世紀初頭になって大量の光が必要なことが初めて明らかになりました。

太陽の光が利用できるように温室の屋根をガラス張りにするのが一般的になりました。

1810 年に出版されたブリタニカ百科事典に記載されている温室とその建設に関する次の厳密な指導は、現在では面白いと考えられるかもしれません。

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「ガラスの屋根はなくとも、種子室(発芽育苗室?)にはガラスをかけます。

コーニスは約18インチの深さとします。

下部のレンガ積み部分は約 18 インチの高さにします。石積みの窓間壁は前部分は2 フィート6インチの厚さとし、うしろ部分は18インチの厚さとします。

7 フィートごとの石積み部分の間は高さ約 7 フィートのガラス細工で埋めたシャッターとし、後ろに折りたためるようにします。

床は地面から 2 ~ 3 フィートの高さに設け、内部に木の架台を設け、その上はステージのようにします。

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ガラスに対する課税がなくなると、以前は明らかに贅沢品であった園芸用の建物が今やほぼ必需品になりました。

調べた限り、イギリスの温室で最初に使用された人工暖房は床の穴に燃えさしを置く方法でした。

カステルが「古代人の別荘の図解」の中で、セネカが紹介したローマのテルマエの温水方式の暖房方法の図を示しています。このことから、温水暖房が古くからあることに疑いの余地はありません。 火中にコイル状の真鍮パイプを設置し、そこに水を通すことによって風呂が加熱されたことがわかります。

すなわち、紀元前からこの方法が採用され、現在も私たちは温水暖房を行っています。

社会的側面

温室の社会的意義は大きいものがあります。

わたしたちは「神の業に触れ,適切にそれに取り組むことは人類の洗練性を高める」ことを知っているので,庭園を鑑賞することは正当なことであり、道徳的な高揚も得られます。

温室は植物との触れ合いと瞑想の両方を高めることができるので、人は高貴にならざるを得ません。

温室を十分に理解し、適切に使用します。

ガラス張り温室内で、小さくて無力な植物の成長を観察し、逆境の中でその発育を促進し、寒さから守り、灼熱の太陽から守り、害虫から救い出し、餌を与える行為。 これらはすべて、人間の心の中にこの小さな植物に対する不思議な共感を呼び起こし、気分を和らげ、そして

金婚式を間近に控えた老夫婦や、新居で幸せな新婚夫婦、あるいは12歳の孫にも同様に強い魅力を与えてくれます。

果物は花と同様に二重の価値があり、もし私たち自身の管理の下、自身の温室で果実を生産した場合、私たちにとって非常に独特な(味覚について最も教育を受けた愛好家でも感知できないであろう)風味を感じるに違いありません。

温室に顕微鏡を持ち込んで植物の謎を深く掘り下げ、これまで目に見えなかった精巧な美しさ、秩序、方法を調べると、その喜びと魅力はさらに増します。

ペラルゴニウムの素晴らしい表皮と気孔、シダの鱗状管、バラの螺旋管、花粉、植物の上を全世界とする数多くの昆虫、そして顕微鏡によって明らかにされる有機生命体の何千もの奇妙な姿は、人々の糧となるでしょう。 余暇の多くの時間に喜びと内省をもたらします。

世界がもはや「不毛で吹き荒ぶ荒野」ではなく、思いもよらない美しさに満ちていることを知ると、悲観主義者は楽観主義者に変わるでしょう。

したがって、私たちの温室は、興味と情報の宝庫、実際には、ほぼ無尽蔵の楽しい組み合わせを備えた科学的な万華鏡になるでしょう。


園芸用の建物が大規模であればあるほど、そこから実際の収穫は大きくなりますが、それゆえに得られる喜びも大きくなるとは考えないでください。

それどころか、楽しさは建物の大きさに反比例し、たった一人の人間が初めて小さな温室の贅沢を楽しむという経験が幸福をもたらすことも少なくありません。

数フィート四方の小さい施設は、管理に数人を要し一年中あらゆる種類の果物や花を生産する広大な温室で人が感じる喜びよりもはるかに大きいものです。

もし、美しいもの、善いもの、真実のものについて深く考えることが人の洗練性を高めるのであれば、栽培するのはもちろんのこと、私たちが自分の温室を美しいものにしようと、できる限りの努力をすべきです。 そしてそれは永遠の喜びとなるでしょう。

植物や花、椅子 1 ~ 2 脚、カーテン、そして少し古い陶器を賢く選んで配置すれば普通の温室を芸術的な花の応接室に変えることができます。 人は誰でも単に生きるためだけに存在しているのではなく、レクリエーションや睡眠以外の休息のための手段を持つべきだと哲学者は主張しますが、それが正しいことはほとんど疑いの余地がありません。

適切に建設され、思慮深く芸術的に装飾された温室は、健康的な休息とレクリエーションのための素晴らしい機会を提供します。

社会的、健康的、道徳的、さらには宗教的な点で、園芸用建物は堅固で優れた利点を持っていることを主張するのは正当なことです。

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