そろそろ秋植え球根を買いたくなる季節になりました。毎年、ヒアシンスの水耕栽培だけは、はずせません。花の香りを楽しみに待って冬中生育を見守ります。
ミセス・ラウドンの「レディーのためのガーデニング入門書(1840年)」の球根の項では、チューリップをさしおいてヒアシンスの解説が一番長いです。花姿、色、香りどれをとっても素晴らしいので、当時も大人気だったことがうかがえます。
長いですが、庭での本格的な栽培方法から鉢植えまで細かく解説されています。19世紀らしく、化成肥料は使っていませんが、1.8mの深さの穴を掘るなど、手間は惜しみなくかけられています。
***ヒアシンス************
ヒアシンスはすべての花の中で、おそらく最も美しい花でしょう。
チューリップのように栽培床で育てる場合、その鮮やかさはチューリップにほぼ匹敵するものとなります。香りはヒアシンスに軍配が上がりますよね!
ヒアシンス・ヴィラと呼ばれるSherherd's Bushに住んでいるオランダの花屋のCorsten氏は、毎年4月にヒアシンスの展示を行っています。私はこれ以上に印象的な展示を見たことがありません。
長さ約60 m、幅4 mのテントの下、長さ約45 mの栽培床が2つあり、その真ん中にマットでカバーされた通路があります。テントの両端にはイスが設けられています。
この栽培床には3000本以上のヒアシンスがあり、その色は対角線上に配色されていて全体が燃えるような完璧な美しさを醸し出しています。
ヒアシンスはチューリップと同様、名前のついた品種が数多くありますが、色以外の何か明確な属性で分類されるようなことはありません。主な差異は白、ピンク、青といった色です。しかし、これらの色には多くのバリエーションがあります。うすい黄色やかなりレモン色に近いものもあれば、とても濃い紫色でほとんど黒色のようなものもあります。
ヒアシンスの栽培方法はいくらかチューリップと似ています。しかし、ヒアシンスは根が下へ向かって長く垂直に伸びていくので、もっとずっと難しいのです。そのため、かなりの深さまで根のために土の準備をする必要があります。
もう一つ、ヒアシンス栽培の特色があります。それはかなり実現が難しいことです。すなわち、球根は完全に乾いていなければなりませんが、根は大量の水分を必要とすることです。また、根はとても肥沃な土を必要とします。しかし、使用される肥料はcoldと呼ばれる発酵が終了してもはや発熱することがない完熟堆肥でなくてはいけません。
ヒアシンス栽培のこれらの特性から、なぜオランダはヒアシンスのため抜群に適した土地であるのかが容易におわかりいただけるでしょう。
オランダは海から国土を守るため、数多くの堤防や土手に盛られた砂質土壌が、同時に、ヒアシンスの球根に適した栽培床となっていて、根は簡単に地中に伸びることができます。一方、堤防の下にある水から蒸発によって常時上がって来る水分は、まさに根が必要とするものです。
オランダで最も容易に入手できる肥料は牛糞ですが、ワラが混じっていないのでヒアシンスに最適です。ワラが混じっていないので、発酵やその結果として熱をもたらすことがないからです。
オランダでとても簡単に実現できるこのような条件をイングランドで整えることは、とても法外な支出をしなければ無理です。一般に、私たちの土壌はとても粘着質なので、根が下に伸びるのに必要なかなり深いところまで土を粉砕する必要があります。たとえ土壌が砂質であっても、オランダ人が砂丘砂(Dune sand)と呼ぶ美しい銀色の海砂とイングランドの砂質土はとても異なっています。そういったなかで唯一の解決策は、私たちが銀砂と呼ぶものとピートをほぼ同量混ぜることで砂丘砂に似せるか、もしくは、細かい腐葉土をほんの少量加えた銀砂で育てることです。どの様な土壌であれ、「オランダの強い風によって吹き飛ばされるくらい細かな砂粒子じゃなくちゃヒアシンスは決して栄えない」と言われるくらいなので、土が軽すぎて良くないということはまずありません。
イングランドで完璧なヒアシンスを育てようとする場合、栽培床作りの前に、幅0.9~1.2 m、深さ1.8 mの穴(ピット)を掘ります。ピットの長さは状況や育てる球根数によって決めます。
ワラや切りクズの混じっていない古い牛糞の層をこのピットの底に少なくとも30 cmの厚さに敷き、ピートと銀砂を同量混ぜた混合土か石の混じっていない完全に細かく軽い腐葉土1に対し銀砂3を混ぜた混合土で上部7.5 cmを残してピットを満たします。上部のこの7.5 cmには純粋な砂の層を敷き広げます。
その上に、下層と同じ混合土で栽培床を作ります。そして、花の見栄えのために全体に約7.5 cmの厚さの純粋なピート層で覆います。
植え付けは必ず乾いた天候下で行います。球根を一定間隔で、オランダ人が鼻(nose)と呼ぶ尖った先端を上向きにして植えていきます。植える深さは栽培床の表面から約15 cm下とし、砂が球根全体を覆うようにします。栽培床は沈み込みを考慮して周辺の庭よりも少なくとも7.5 cmは上げるようにします。表面の純粋なピート層は花が咲いた時、花に対して黒い背景としての効果もたらすためだけのものです。もしこの黒い背景が必要ないならピート層は省略することができます。
球根は10月の最終週か11月の第1週か第2週に植えます。四方に約10 cm間隔を空けて植えるようにします。通常、植え付け後、牛糞を水で溶いたものをシャベルですくって栽培床にまきます。土中に浸透させるのではなく、表面にうすくコーティングするようにします。
霜が降りる頃になったら、乾いた野菜残渣やアシあるいは樹皮で栽培床の上を覆います。もしくはフープを床に固定して(トンネル支柱をたてて)靭皮のマットを覆いかけることもできます。
3月にその覆いを取り去り、栽培床の雑草をきれい除草します。新たに牛糞と水でコーティングします。
4月に薄いキャンバス地の天幕を各栽培床の上に建てます。その下で花が咲きます。4月の半ばまでには美しい満開を迎えます。
花がしおれ始めたらすぐ花茎を切り落として撤去します。栽培床の上にそのままにしておいてはいけません。次の年のヒアシンスの栽培床にその土を混ぜることさえしてはいけません。
開花後もヒアシンスから出続ける浸出物質は球根を腐らせる原因になります。これは、ヒアシンスからの浸出物質が同属の他の球根類に対して有毒であるからだけでなく、ヒアシンスの花茎はある種の腐食性の汁を含むことがわかっているからです。オランダで球根から花茎を切り落とすために雇われた労働者は手や体に赤い炎症を起こすことがよくあり、時に安眠できないほど痛みます。
葉の先端が茶色に変わったら、それは一般に6月半ば頃ですが、球根を掘り上げなければいけません。この場合、最初に葉を引き抜きます。もし引き抜けなければ球根の近くで切り取ります。それから球根を地中から掘り上げて、品種毎に分類して列状に通路に置いていきます。
その後、栽培床にレーキをかけて、上面をすっかり平らにします。約45 cmの幅の板で栽培床の中央を平らに固めます。板で押さえるか、スペード(シャベル/スコップ)の背で叩くかして、その上に分類した列を崩さずにヒアシンスの球根を置いていきます。それからその上に土を5~7.5 cmの深さになるようかけて、2,3週間放置します。これは、オランダ人が「 Kauilに置く(lying in the Kauil)」と言っているもので、放置する時間は球根の大きさと天候によって変化します。最も大きな球根は最も早く取り出されます。
Kauilから球根を取り出したら乾燥させるため、棚か木のトレイに置きます。球根の根側のお尻を南に向けるようにします。
栽培床の沈み込みが深くならないと考えられる場所なら、ピットの深さを1.8 mから1.2 mにすることができます。ピット底の牛糞の層は土と混合して30 cmの深さとします。ピートと川砂に腐葉土を1/3混合した土で約0.9 mの深さ分だけ満たします。その他の作業は先に述べたのと同じです。
すべての場合において、土壌は軽くて細かいものでなければなりません。肥料としては牛糞のみを使用します。また、根のある栽培床に必ず牛糞と水の混合物をとても控えめに撒きます。この混合物は栽培床のコーティング用に使われるものほど濃くしません。
球根を植えつける時と掘り上げる時、球根を注意深く調べます。わずかでも斑点やカビのあるものは他の球根に感染するので、すべて一方に取り分けておきます。感染した部分が大きい場合、その球根は捨てるか茎ごと燃やしてしまいます。しかし、斑点が小さいなら鋭利なナイフでその部分を切り取って24時間以内に植えつけます。
ヒアシンスは子球、球根分けあるいはタネによって殖やします。タネによる場合は花が咲くまで5年かかります。
鉢やボックスに植える時は、鉢かボックスの半分を鉢のかけらか排水を確実にできる材料で満たします。球根はピート、砂、完熟牛糞堆肥の混合土に植えつけます。球根は約半分だけ土で覆います。
ボックス(プランター)植えの場合、もし可能なら花の準備が整うまで温室に置きます。鉢植えなら、温床か樹皮の発酵熱ストーブ(tan-stove)に埋め込みます。それができない場合は、鉢ごと庭に埋めます。その際、球根の先端が少なくとも地中10 cmの深さになるように埋めます。ここで、花が着くまで約6週間放置します。それから鉢を掘りだして、花を咲かせたい場所に置きます。
所定の場所においた鉢の側面はコケで保温します。毎日水やりすることで開花を早めます。鉢やボックスで育てられるヒアシンスはどれも根が限られた不自然な環境にある代償として、豊富な水が必要です。
鉢やボックスあるいはガラスの水耕栽培容器のヒアシンスは、咲き終わったら球根を露地に植えて、そこの土で約2.5 cm覆います。このように管理すると、優良品種は枯れて消えてしまいますが、丈夫な品種は毎年秋まで葉を着けたままにしておけば新たな球根ができるまで生き残って何年も花を着けます。ただし、水耕や鉢植えで開花したヒアシンスは根が不自然な状態に置かれていたショックから完全に回復することがないため、その後少なくとも数年間うまく花が咲くことはほとんどありません。
このような状況と違って、オランダの花屋は垂直に下降する根に十分な空間を設けてやれるので、毎年秋に球根を掘り上げることで最も良質な花を持つ優良品種の球根を12年あるいは20年間さえも保ち、毎年素晴らしい花を咲かせることが知られています。
ヒアシンスの浸出物質は多量で自身の同属の植物などにとても有害であることを認識しなくてはなりません。この理由でオランダ人は決して同じ栽培床で2年続けてヒアシンスを育てることはありません。通常のローテーションは、1年目ヒアシンス、2年目チューリップ、3年目水仙・ポリアンサ、4年目クロッカス、そして5年目に再びヒアシンスに戻ります。
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