2023年5月2日火曜日

19世紀流菜園の土作りⅠ:ウォルター・ニコルのキッチンガーデン

19世紀(それ以前からも)において、それなりにお金をかけたキッチンガーデンといえば壁で囲った菜園でしょう。16世紀なら菜園の囲いは生垣や囲垣で、かなり贅沢な場合のみ壁囲いといったところでしょうか。

また、16世紀の単に耕すだけの土作りから、19世紀には土壌層を反転する、すなわちプラウ耕が菜園の土作りでも常識になったようです。その方法が詳しく解説されています。しかし、いくら限られた面積とはいえ菜園の土を人力だけで反転するなんて、現代人からすると苦役としか思えません。マメトラや耕運機がなくては無理ですよね。

土壌の無機物も有機物もすべて解明されるようになれば、現在関心を持たれている不耕起栽培で楽に最高の収量を安定して得られるように菜園が進化するかもしれませんね。

ちなみに、土壌の微生物分析結果を見たことがありますが、同定できた菌は全体のわずか8%しかなくて、90%以上は何の菌か特定できないことにびっくりでした。土壌の、特に有機物の完全解明はもう少し先なのでしょう。

第1章 菜園の土壌の適切な深さと状況

キッチンガーデンの野菜は「新天地と呼ばれるような場所(新しい土)」で最もよく育つというのが一般的な認識です。これは多くの事例が証明しています。

また、ガーデナーの間で不満もあります。自分の土地の「使い古された場所」では特定の種類の野菜が収穫できないというものです。

その原因は土が貧弱で栄養がないとか、野菜の生産にまったく適していないということではありません。おそらく、すでに過多の状態となっているからでしょう。

そういった場所は何年もこれら特定野菜の栽培下にあったため、その土を適切な変化で回復させるには相応の土地面積が必要なのですが、それが十分ではないのです。

壁囲いの菜園ではこういった不満は最も一般的なものであり、それは家族に十分な野菜を提供するだけの面積を確保する費用、または十分な深さの土壌を作るための費用をケチったことによって生じるように思われます。

野菜はその多くの種類が、囲いのない開けた場所の菜園でも、高い壁で囲まれた菜園と同様に (それ以上ではないにしても) 生育します。こもれびや木で日陰になるような場合は紛れもなく悲劇です。良い果菜は収穫できません。そういった場所では壁囲いの菜園であってもうまく育てることはほとんどできないでしょう。

しかし、壁で囲まれた土地の場合は確かに野菜の生産に最も適しているでしょう。壁は北風を防ぐなどの寒さよけになるので、野菜の促成的な栽培に向いているからでしょう。

ご推察のとおり、このように壁で囲まれた場所は長年、菜園として使われてきました。

この壁は相当の費用をかけて建設されるものです。その土地はかなりの費用をかけて溝が掘られ、歩道が作られ、配置されます。

このようにして作った菜園では料理に使うための健康な野菜が生産できることが何より大事です。 

この望みを達成する方法についていくつかのヒントを書きましょう。それらは私が部分的に実践して成功した方法です* 。

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* 私が「部分的に実践した」と申したのは、実践には何年もかかるからであり、(私の状況の変化によって) 実際にそれを完遂することができなくなったからです。しかし、その理論は合理的であり、園芸と農業どちらの改善にもなると思います。今後、国の豊かな土地において、多くの独創的な改善を遂げる人が現れることでしょう。

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菜園の土作りの方法

1)まず、土の深さは24 インチ(60 cm)から 36 インチ(90 cm)必要です。

多くの場合、多大な費用と労力なしでは達成できません。このような土地の確保は一回で行いますが、二次的なこと(費用?)も考慮しておかなければなりません。

土作りの費用は庭作りの費用の10から20パーセントをあてることができれば、ほとんどの場合、十分でしょう。

この時、自然土の深さが 24 インチ(60 cm)に満たなければ、客土すなわち隣接する畑の土を持ち込むことによって確実に土作りできます。 ただし、トレンチ(溝)を掘って下層土(それがどんな組成の土であっても)を多量に客土と混ぜ合わせることはお勧めできません。

実際、多くの場合、菜園で下層土と表層の腐食土を無分別に混合するとほぼ台無しになってしまいます。


2)次に、地形などの環境を考慮する必要があります。 本章の冒頭でその課題に関して245ページにすでにいくつかのヒントを書き記しています。

そして、ここでさらに注意すべきは、菜園を低平地に築くのが良い場合はほとんどないということです。そのような場所では心土が乾いていることはめったにないからです。

そして、低平地は傾斜地に比べて排水が必要ですが、その排水が困難だからです。

北向きの土地も避けるべきであり、南、南東、または南西向きの土地にすべきです。 ただし、東向きや西向きも往々にして、優れた環境になりえます。

傾斜度が1/12〜1/30あるいは 1/40あれば、一般に排水効果が得られます。 なお、1/25 くらいの傾斜が最も効果を発揮します。


3)私が書き記したルール、そのルールの内、部分的に実践したのは次の方法です。

すなわち、 地表から栽培作物を取り除き、3スピット(シャベルの刃の長さが1スピット)の深さの溝を掘り、下の層と上の層を入れ替えます。その場合、中層は入れ替えず中層の土のままです。 

翌年は地表から栽培作物を取り除いたら、2スピットの深さのトレンチを掘ります。こうすれば、地表に中層が来ることになります。

その次の年は地表から作物を取り除いたら、また3スピットの深さのトレンチを掘ります。そうすれば、以前中層で今は上の層にある土が下の層へ移り、最初に上の層で今は下の層になっている土は再び上の層(作土層)になります。

このように交互に土を入れ替えていきます。2スピット深さのトレンチを掘ったら翌年は 3スピットの深さのトレンチを掘ります。そうすれば、上の層(作土層)は常に入れ替わって、各層の土は6 年休んで 3年(4年休んで2年?)栽培土になるといったローテーションになるでしょう。

こうすれば、作土層は常に健康な野菜を生産するための「新しい土**」であり続けます。

そのためまた、土壌層が浅くて入れ替え(反転耕)ができない状態で常に作物が栽培されている場合よりも必要な肥料の量ははるかに少なくなるでしょう。

[土壌層に掘ったトレンチ内の3層を反転させていく方法。6年で一巡する。]


上で述べたように、土壌層の厚さは 24 ~ 36 インチ(60~90 cm)必要です。トレンチの深さをこれより浅くするのも深くするのもお勧めしません。

深すぎると、天候や太陽熱の影響を受けていない深い層が地表面になってしまう可能性があり、その場合、トレンチを掘って入れ替え作業をした後、作土層は未熟で改善にしばらく時間がかかる土になってしまいます。

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** 確かに実際にはそのようなものは存在しないため、”新しい土壌”という呼び方は私たちが新しい土壌について持っている認識と一致していると思います。 しかし、このプロセスによって、作土層は大幅に修復されるでしょう。

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土壌層が 2スピットの深さしかトレンチを掘ることができないくらい浅く、客土して土壌層を深くするような費用も捻出できないような場合でも、上記のヒントは有用です。

3年または4年ごとに定期的にトレンチ(溝)を掘り、土壌層のの上下を入れ替える作業を行うことにより、作土層はその半分の期間休むことができます。 このようにうまく反転耕を行って適切に輪作するなら、健康な野菜を何年にもわたって生産することができるでしょう。→上下を入れ替える際に有機物をはさみこむことの重要性に言及されていませんが、現代では重要な注意点でしょう。堆肥などの有機物を入れないで耕運機で調子良く反転していくと土壌が締め固まっていくでしょうから。

多くの場合、一挙に菜園全体を反転するのは不適切で大変ですし、そのような提案をするつもりもありません。

一度に菜園の2 分の 1 か 3 分の 1 だけこの反転作業を行うのが適切で容易です。実際にどのように作業するかは状況次第で決めることができます。

ただし、よく観察して底土(心土)が濡れていたり、水に浸かっていたりする場合は、トレンチを掘る際に、各トレンチが正確に同じ深さになるように注意する必要が必ずあります。トレンチの底に凹凸が残っていて均一でなく、トレンチ間に隆起が残っていたりすると、水は土壌中に停滞し、その結果、腐敗の原因となって、果樹であれ野菜であれ、どんな作物にも生育障害をおこすことになります。

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