2024年5月6日月曜日

19世紀末の園芸施設:10. 栽培温室---両屋根(スパン)ハウス

現代でも最も一般的な温室屋根形状である両屋根タイプのハウス(スパンハウス)の記事です。現代の商業温室ではこれを大きく、かつ多連棟化して大面積にしています。それに比べると、19世紀の両屋根ハウスは面積も高さもかなり小さめで、今で言うところのホビー用温室、家庭菜園用温室といった趣です

  HORTICULTURAL BUILDINGS.  By F. A. FAWKES. (1881)

栽培温室

両屋根(スパン)ハウス

立て掛け式に次いで、両屋根(スパン)タイプのハウスは自然で利点の多い様式です。 

以下のような場合、特に有用です:

—利用できる壁がない、または壁を不要とする場合。
—南壁に対して直角に建てたい場合や、立て掛け式ハウスとの組み合わせで建てたい場合。
—太陽光の遮蔽をできるだけ少なくするために、最低限の高さにしたい場合。
—植物を可能な限りガラス面に近づけて栽培する必要がある場合。
—あるいは、ハウスを南北棟にして、ハウスの各面から同じ量の太陽光線が入るようにしたい場合。

両屋根ハウスは通常、棟方向を南北(南北棟)にして、植物のあらゆる面に太陽光線ができるだけまんべんなく当たるようにします。

あるいは、ハウスの片側をより暖かくして、もう一方の側よりも多くの太陽光線を受け取るようにしたい場合は東西棟にすることが多く、そのようなハウスは多様な植物を栽培する場合に非常に役立ちます。

両屋根ハウスの一般的な形式を図 24 に示します。


図 24.—正面にガラス窓を備えた両屋根ハウスの断面図。

これは、2フィート' 6インチ" (75cm)のレンガ造りの側壁上に2'フィート 6"インチ(75cm)の垂直のガラス窓が設置されています。すなわちハウスの軒高さは1.5m、ハウスの幅は3m程度といったところです。

ハウスの側面が垂直のガラス窓であれば、それを下部の換気口として開けることができます。特に悪天候の場合や外気が冷たくて、植物に当たる前に温湯パイプ上を通過させて暖める必要がある場合に、レンガ造りの壁にある換気口の代用や追加装置として使用できます。

一方、屋根の棟の両側に設けられた天窓のガラス窓、または棟の片側に連続して設けられたガラスの天窓、あるいは棟の両側に連続して設けられたガラスの天窓は、ハウスの環境や栽培状況などに応じてスイングして開けることが可能です。

側面にガラス窓がない場合は図 25のようになります:—



図25.-両屋根ハウスの断面図、側面にガラス窓なし。

これは実質的には(図 22のような)立て掛け式で屋根部分が両屋根になったようなものです。

屋根部分は図24と同じですが、下部の換気はレンガの壁に設けられたフラップ、あるいは開閉スライドなどによって行われます。

軒までの高さは 4' 0" (1.2m)と記されていますが、この高さはハウスの用途に応じて変更できます。ハウスの幅は図24と同様、3mといったところ。

この寸法であれば、展示台や盛り土で嵩上げしたボーダーか栽培ベッドが適していることがおわかりいただけるでしょう。

図 25と図 24でハウスの幅と長さが同じあれば、図 25の方が建設コストがかからないでしょう。

両屋根ハウスの別の形式を図 26 に示します。


図 26. —ガラスの高い側面を備えた両屋根ハウスの断面図。

これは、図 24 と同様ですが、側面は地面から直に立ち上がった高さ6 フィート(1.8m)のガラスで、その面の下部と天窓で換気されることを示しています。

このハウスは以下の場合なら有利になります。

—内部の温度が急激に下がらないようにするために、かなり大きな内部空間が必要な場合 。

—無暖房の施設で、太陽光線をできるだけ壁で遮ることなくとり入れなければならない場合。

—大きな植物を屋外側のボーダーに植える必要がある場合。


図 27 は、より大型で特徴的なスタイルの両屋根ハウスです。


図27. 大型両屋根ハウスの断面図

これは、ルーフランタン(明り取り用のキューポラ)が屋根から立ち上がっていて、そのフレームがあることで太陽光線がさらに遮られますが、大規模で重要度の高い施設では、このような形式が必要とされることがよくあります。

このようなハウスは、果樹用ハウスとして使用されることもありますが、厳密には栽培に向いたハウスとは言えません。

この軒高と全体的なプロポーションから、展示用ハウス、花の回廊、園芸遊歩道、コンサバトリーなどとして使用する方が適しています。

両屋根ハウスのまた別の形式は、屋根勾配が複数で構成されたタイプです。それは二つの勾配で構成された立て掛け式ハウスほどの利点はありません。


こんな感じの屋根(2つの勾配)の両屋根ハウス。

一般的な高さの展示台を内部に備えた植物ハウスとして使用され、ガラスの側面が実質的に地面から直に立ち上がって屋根面まで達している場合、展示台の高さより下のガラス面は役に立たないだけでなく、高さのある展示台がガラスの視界を遮ってしまうので外観的にもあまり美しくありません。

また、この形式のハウスで効率的な換気を行うのは簡単ではありません。

屋根の下側の勾配は、「5-1, 5-2.屋根の傾斜」の項で述べた原則に従えば、ほぼ確実に急勾配になります。 屋根面下近くにある植物にはかなり適していますが、ハウスの中央部付近にある植物はガラスから遠すぎることになります。

通常のホットハウス(暖房ハウス)として使用するには、このような形式に大きな利点はありません。

このハウスは、例えば換気開口部に合わせて2フィート(60cm)の小壁を設けるなどして下部の換気をより簡単に実現できるようにすれば、ブドウ栽培にかなり適していると言えるでしょう。

また別の形式は、屋根自体が実質的に地面から直に立ち上がっている形式であり、図 25において小壁と下部換気装置が省略されてたものと言えます。

太陽光線は確かにハウス内部のあらゆる場所に届きますが、側面近くの地面は栽培に不適切になる傾向があります。

もちろん、他の両屋根ハウスの屋根と同様に、上部の換気は簡単ですが、下部の換気、すなわち、冷気が葉に触れる前に温水パイプの近くを通過するような換気は難しいです。

このようなハウスは安価に建設できるかもしれませんが、効率的とは言えません。

曲線形状の両屋根ハウスは特化したセクションを別途設けます。

立て掛け式ハウスでは、太陽光線は主に植物の片側にしか当たりませんので、そこに動かさずに置いておくと、植物の一部には直接光がまったく当たらないことになります。

しかし、両屋根式であれば、光線は植物の両側から当たるので、より均一な成長が期待できます。

他の条件が同じであれば、両屋根式での熱は立て掛け式のほど保持されません。

これは、棟が東西方向である場合、特に当てはまります。放射熱は、レンガの壁、特に鉢植え小屋、炉室、キノコ小屋などでは壁は熱を遮蔽しますが、ガラスの屋根面やガラスの北側の側面からは熱が逃げやすいためです。

したがって、同じ気候の場所で両屋根ハウスが立て掛け式ハウスと同じ室温を実現するためには、より多くの暖房熱量を必要とします。

両屋根ハウスの屋根面積は、同じ勾配角と幅を持つ立て掛け式ハウスの屋根面積と同じですが、当然のことながら、屋根の最低点(軒)と最高点(棟)間の高低差は立て掛け式が2 倍になります。 

したがって、ガラス面の近くにおく必要がある植物にとっては両屋根ハウスの方が有利であり、立て掛け式で必要とされるような高い展示台を設ける必要がないことがわかります。

一般的な幅(3m程度?)の両屋根ハウスは、同じ幅の立て掛け式ハウスのような1本仕立ての長い垂木が必要ありません。

ハウスの内部および外部の床面の基準高さについては、排水、ストークホールの深さ、外観、建築上の要件、視界や光を遮蔽する物、コストの面で、「9.立て掛け式ハウス」のセクションで述べたのと同じ注意が両屋根ハウスにも必要です。この形式のハウス(温室)の存在理由は、他の形式のガラスハウスとともにすでに述べたところです(「6. 園芸ハウスの周囲と場所」を参照)。

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