2021年11月3日水曜日

キュウリの促成栽培 in 19世紀(後半)

キュウリの促成栽培は「燃焼暖房の温床より発酵熱の温床がいいよ」というのが前回の内容でした(アスパラガスはその逆で、燃焼暖房の方をお勧めされています。)。発酵材料の家畜糞はさぞや臭かったろうし有害微生物もいっぱいで、とても現代では採用し難いです。かろうじて植物性の発酵材料なら心情的に許せますが、人体に有害な微生物がいないわけではないので、現代人が安易に手を出せるものでもありません。もちろん通常の庭仕事だって有害な微生物を吸って肺症にかかるなどの心配があります。将来、安全安心に微生物が完全コントロールできるようになりますように。

さて、今回は発酵塚の上に栽培床(ベッド)を作っていよいよ栽培開始です。200年以上前のキュウリの促成栽培はどんなものか、お楽しみください。

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【発酵塚の準備】

この時(12月中旬か1月初め頃)あるいは1月20日頃に最高品質の厩糞(馬糞)を十分な量、塚に混ぜ、56日置いて熟成し、それから切り返して2つめの塚の上によく振りかけます。この状態で、2月始めまで置いておくことができます。その頃には栽培床(ベッド)を作る準備が整います。栽培ベッドに便利なサイズは1ライトのボックス(1.2m長のフレーム)となるでしょう。

畜糞がバラバラに乾燥していて焼けるような状態なら、混ぜたり切り返す過程で少量の水を加えることをお薦めします。これは発酵を促進し、適切な日に向け早めに発酵を落ち着かせるでしょう。これは将来の成功をかなり左右します。

いよいよ栽培ベッド作りにとりかかります。周囲をフレームよりも30cmほど幅広くとって、フレームの高さは後ろ1.5m、前1.2mとします。フォークで塚をよく叩き、畜糞がくずれるようなら、12度踏み込みます。

どんな場合も必ず踏み込みを行う人もいれば、全く踏み込まない人もいます。しかし、栽培ベッドを作るときに糞が粗くバラバラな状態だったら1回か2回は踏み込みを行うのが作法といえましょう。踏み込むことによってベッドのどこが傾きそうかかわかりますから。そして、全体が均一に落ち着けば結果的に植物に好影響をもたらします。特に尾根状(高畝?)の栽培ベッドにおいては。もし畜糞が窪めば、植え付ける腐植土層にひびが入るのは避けられません。これは柔らかな根にとっては明らかに障害となります。

塚にある程度の高さがあるなら、アスパラガスの栽培ベッドの項で述べたのと同じ方法で注意して芝を貼ります。

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【フレーム内の準備】

フレームを設置して、その中に最も細い海砂か山砂を敷きます。望ましいのは、前もって砂はライト(フレームのガラス面)下にて15 cm以内の厚さにして完全に乾かしておくことです。この砂層の上に軽い砂質ロームを5 cm厚で敷きます。

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【タネまきとフレームの管理】

それから約15 cm径の植木鉢かトレーに完熟腐葉土*を満たし、タネを撒きます。そして同じ腐葉土で1.25 cm覆土します。鉢かトレーは栽培ベッドの真ん中に一列に鉢の縁まで埋めます。後ろ側に30 cm離して他のを埋めます。ライト(ガラスの蓋)を設置して、夜間は二重のマットでカバーします。

*この腐葉土の準備方法はこの本の別の章で述べられています。

蒔いたタネはネズミに食べられないよう注意しなければいけません。ネズミはこの早春の季節に温床辺りでとてもよく見かけます。タネを撒いた鉢の上にサイズのぴったり合う鉢を被せます。鉢底の穴は敵が侵入しないよう小さな穴のものにします。この被せた鉢は朝に取り外さないといけません。そして発芽して2.5 cmの草丈になるまでは毎夜被せます。この害獣は主に夜間に悪さをするからです。昼は植物はたっぷりの日射を受ける必要があります。

栽培ベッドは24時間内に発酵熱で暖まり始めるでしょう。ライト(ガラス蓋)の後ろ側を2.5 cm程度、前はその半分の1.25 cm持ち上げて少し換気するようにします。立ち上る有害な湿気を排出するためです。日没時毎晩フレームにマットを掛け、天候が良ければ朝8時までかそれより早くにマットをとりはずします。植物が伸び始めたら換気や水やりに注意を払います。

庭師は誰でもこの国では悲観的です。この国ではこの季節、日が短いだけでなく曇って薄暗いからです。それは大陸の人にはほとんどわからないでしょう。植物の健康と活力に日射が必須なのに、厳密に言ってこの国では許されないことなのです。 ガラスだって頻繁に洗って拭き、埃やゴミで日射熱や太陽光線が遮られないように常にきれいにしておかなければいけません。

朝に快適な蒸気が少量発生するなら良い兆候です。しかしこれが多量ではいけません。フレームのカバーを外した後1時間内に消える程度にとどめます。それ以上の量の蒸気は好ましくありません。植木鉢やトレーの底を頻繁に調べてください。発酵熱があまりに強く昇ってきているようなら、若い細根が焼けるのを防ぐため少し持ち上げます。必要とあれば完全に地表に置きます。もし水が必要なら少し水やりします。しかし、それはフレーム内か同様の別の場所であらかじめ数時間汲みおいておかなければいけません(水温を合わせるため)。

温床内の温度計を見て作業することは一般的なやり方ではありませんが、ストーブ(燃焼暖房)などでの作業と同様、確かに望ましいことです。・・・温度計が高価だったのでしょうね。

この季節の変わりやすい天候下では播種床は1521の範囲であれば大丈夫です。温度を見れば、さらにマットを追加してかける必要があるかどうかもわかるでしょう。

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【育苗時の管理】

草丈が約2.5 cmになったら、育苗ポットに植え替える時期です。育苗ポットは径が約10 cm深さも10 cmものにします。種まきしたのと同じ種類の腐植土に植えかえます。ポット内で各苗をできるだけ離して34苗植えます。ごく一般的に行われていますが、指で腐植土に穴を空けたり押してはいけません。代わりに、まず土を苗のサイズに従ってポットの半分か2/3まで満たします。そして、苗の葉が鉢の縁よりも上に来るように、かつ鉢の側面に寄らないように置いて、(ふるいにかけた)腐食土をポットの縁の高さまでゆったりと入れます。そして少量の水で全体を落ち着かせます。再びポットを縁の深さまで埋めます。それには前もって砂の層を作って、播種の時と同様にベッドの表面に砂質ロームを約5 cmの厚さに敷いておかなければなりません。ここで育苗する間、天候の状態に応じて、空気、蒸気、水をきちんと管理します。そして発酵熱で根が焼けていないか、ポットの底を頻繁に調べます。

悪い蒸気がベッド内に充満しているなら、夜間1.25 cm隙間を空けておくことをお薦めします。その上にマットの端を垂らして、空気がそこから抜けるようにします。しかし、マットはベッドのライニングを包み込むほど低く垂らさないようにします。それでは蒸気を逃す代わりに中に留めてしまうからです。日中は、ベッドの中の蒸気や湿気を取り除くために、フレームの前と後ろから適度に空気を入れて換気します。日射熱を利用できる時は、砂の表面などを頻繁にかき混ぜます。そうすることでベッドの内部空気を浄化し、良い効果をもたらします。水やりはほとんど不要です。34日に1回だけでおそらく十分でしょう。 ただし、水やりする時は必ず根の先端に十分な量が届けられるようにしなければなりません。

天候が厳しい時はベッドの1側面か複数の側面を覆うのが良いと思われます。ただし、これにより植物が阻害を受けていないか時間をかけて調べなければいけません。また、植物が突然の熱や急激な熱によって傷害を受けていないかにも注意が必要です。

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【定植の準備】

上記の様な方法で、必要とされる生産量に応じてライトフレーム(ガラス蓋付きのフレーム)の数(123かそれ以上か)が決まります。それに見合う必要量の畜糞を用意しておきます。

そして、各苗が本葉4枚になったら、播種床や育苗床で説明したのと同じ方法で移植用のベッドを作ります。畜糞の状態から発酵熱が強すぎると思われる場合は、先に述べたようにベッド全体に芝を貼ります。しかし、適切に発酵しているなら、各ライトの中央に大きな丸い芝を貼って、その上に植物を置けば、一般に過熱を避けることができるでしょう。しかし、後者の場合(芝の上に植物を置く場合)、芝を貼る前に畜糞の表面は軽い砂かよく量を減らした古い樹皮15 cmの厚さで覆っておきます。それは前もって完全に乾かしておかなければなりません。

フレーム*とライトをセットして、夜間はマットでカバーし、熱を立ち上らせます。穏やかな温度に達したら、猫車3台分の腐植土+(前もって完全に乾燥させて積んでいたもの)をベッドの各ライト幅に合わせて均等に広げます。

フレームは後ろは30インチの深さ、前は15インチの深さに設置すべきです。

+ 3/4は入手可能な最も肥沃な黒ローム(可能なら牧草地からのもの)14は落ち葉の腐食土で、十分な量の厩糞とよく混ぜたものが、私が長年使ってきて成功したものです。

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【定植】

24時間後、ベッドは苗を植え付ける準備が整います。しかし、植え付ける前に、ベッド表面から十分な量の腐植土を集めて、各芝の真ん中か、各ライトの中央に、ガラスまで12.515 cm以内の距離となる丘を作ります。厚さ37.5 cmで、頂部は2530 cmの幅になるはずです。

ポットの土塊を受け入れる穴をつくります。土塊はポットから注意して取り出し、この丘の表面の高さに合わせて植え付け、全体に少量の空気を含んだ水で落ち着かせます。植え付け時、植物の地上部はキュウリの種類によりますが、多かれ少なかれ約7.5 cmの径に広がっています。もっと伸びている種類もあります。

こうすれば、熱、蒸気、換気、かん水はすでに示したやり方で、ハウス内の環境状況と実ができ始めるまでの植物の活力に応じて調整できるでしょう。ここではそれ以上言いませんが、キュウリの剪定や摘果について検討したのち、この話題に戻りましょう。

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【栽培管理:摘芯】

植物が本葉を形成したら、芯芽を摘み取ることが絶対に必要と考える人もいますが、 私はそうは思いません。なぜなら、私が繰り返し行ってきた詳細な観察と公平な試験結果から、芽を摘むか摘まないかは結果的に変わりはないと断言します。4本目のランナーかつるを出し始めるまで摘み取りも摘芯も考えません。また(あまりにつるが少なすぎてフレームの側面で茂っていないというのでなければ)キュウリの実の着果を確認するまで摘芯は考えなくてよいのです。実をつけてたらこれらのつるを切り落とす時です。ただし、6節の長さに達しにくい場合もあるかもしれません。そこで繁殖力のあるつるを作るために切り落とします。植物が健康なら繁殖力のあるつるを作るのにほとんど失敗しないでしょう。

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【栽培管理:受粉・収穫】

もし雄花の量が極端に多いなら、その一部を指*で優しくこすり取ります。通常の数だけしか花が咲いていないならこれは賛成できません。自然にやさしく空気を入れます。しかし、それができない場所で無理に受粉したり受粉の邪魔をしたりしてはいけません。雌花が十分に成長したら、最も強く健康な雄花を選んで丁寧に受粉するようにします。それが実の成熟を促進します。ここで注意していただきたいのは、実や雌花が雄花と受粉していないと、実が大きくなって食卓にぴったりのサイズになっても、タネは熟さないということです。雄花の花粉が虫などによって運ばれたり、フレームを通過する風によって受粉するのはよくあることですが、人の手で受粉の些細な手間をかける方がより確実な方法です。果実がきれいな形に実っていれば繁殖用のタネができているという目印になります。

メロンやキュウリの強くて古いつるの剪定以外はナイフを使うべきではないとここでわかるでしょう。健全な状態のキュウリの葉ほど脆いものはないので、必ず細心の注意を払って丁寧に取り扱う必要があります。

受粉した実は膨らみ、収穫が早まります。そのやり方はこうです。強くて健康そうな雄花を選びます。茎を摘み取ります。花びらやがくを取り除き、雄しべと葯だけを丁寧に残します。指の間にそれをはさみ、葯を雌花の懐に入れます。それは新しい実のような形をしているので容易に識別できます。そして指ではさんでいる茎をねじると、雄花の花粉が擦り落とされて、雌花の結実器官である柱頭に付着します。

植物に問題がなければ、ベッドの発酵熱が消失する前に順調に成長するでしょう。2月半ば頃にベッドが作られたとするなら、一般に最初に着果した数個がその時までに確実に収穫できます。23日か24日頃に植えられて、天候に恵まれたなら3月中下旬までに収穫に適した株になっているはずです。(これは蒔かれたキュウリの品種に大きく左右されます。現在、キュウリの種類は非常に多く、ほとんどの園芸家が自分のお気に入りの品種を持っているため、どの品種が良いかを私が述べるのはおこがましいかもしれません。特に、多くの知られた品種が同等の能力を持っています。)

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【栽培管理:発酵の継続】

この時までに発酵熱がかなり減衰している場合は、後面と両端の面をライニングする準備をします(発酵材を新たに上塗り追加すること)。少し発酵させた新しい厩糞を一定量、ベッドの古い面や端面と混ぜる作業をします。アスパラガスのベッドで示した方法と同様、まずその面を切り落として、それが落ち着くように作り上げます。その後、芝か腐葉土でカバーします。植物が成長するにつれてガラス面に接触しないように、適時、レンガやタイルでフレームを持ち上げる必要があります。

また、根を広く生長させるために、この時までに、丘を拡張する必要があるでしょう。そこで、ベッドの表面を、パイナップルの鉢などを埋めるのに使う小さなハンドフォーク(熊手)で砂や樹皮面の深さまでかき上げます。そして、もし熱で根が焼けていたならば(根が障害を受けるような経験を私は2度したことがあります。)、そこを腐植土で置き換えます。フォークで根が現れるまで慎重に丘(hill)の側面を崩し、必要なら少量の水を注ぎます。そのあと、表面を丘の高さまで最初*の時と同質の新鮮な腐植土で盛り上げます。しかし、この作業はライニングする数日前に行うか、ライニングした数日後に延期するかしなければいけません。ベッドが内も外も同時に冷えている時には植物はチェックを受けることができませんから。

* 私はここでベッド全部を直ちに土で満たすよう指示してきました。もし促成を上記のお勧めする時よりも早く始めていなければ、それで十分満足がいくでしょう。しかし、もし促成をそれよりひと月か6週間早く始めたいなら、より強力な発酵熱のベッドとより多くのライニングが必要になるので、一気にベッド全体を盛り上げるのは軽率な行為となり、結果的に根焼けの危険を増すことになります。

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【栽培管理:かん水】

植物は今や活発に成長するでしょう。そして実をたくさん成らせるでしょう。季節が進むにつれて実の品質が向上するように、毎日すぐに新鮮な空気で十分換気しなければなりません。晴れて穏やかな天気の5月が来たら、ガラスは日中完全に取り外すことができます。ジョーロの散水口から大量の水を頻繁に与えます。季節が進むにつれ、花を暖める効果があります。かん水をキュウリ以上に多く必要とする植物は他にほとんどありません。 そしてかん水が差し控えられれば、優秀な観察者はキュウリの木が不満であることにすぐに気づくでしょう。

水やりの最も適切な時間は朝8時頃か夕方4時頃です。季節に応じて1時間早くしたり遅くしたりします。可能なら、植物が育っている気温と常に同じ水温にすべきです。そうすれば、成長は停滞せず、水分や栄養の調達者である柔らかな根毛に不要な努力をさせません。同様の理由で、一度に極端に多量の水も与えるべきではありません。

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【栽培管理:間引き・誘引】

ツルや葉は適度に間引きして、順番通りにすべて規則的にレイアウトし、お互いが交差しないように管理します。 また、 枯れた葉や腐った葉が見られたら取り除くよう注意してください。それは植物にとっては、動物が閉じ込められて腐敗した空気を呼吸するような不快なものです。そのほか、キュウリを一度にたくさん剪定するのも避けなければいけません。切り口からの多くの樹液が流出してしまい、植物は枯渇してしまいます。

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【ライニング(発酵材の追加上塗り)】

4月初旬か中旬頃、ベッドの正面をライニングする必要があるかもしれません。正面は後ろや両端面と同じ方法でライニングします。しかし、後面や両端面と同じ頻度で正面のライニングを更新する必要はまったくありません。正面のライニングは優しい熱(日射熱)を受け与えてくれます。それは4月じゅう続きます。 結局、底熱はほとんど正面に影響しません。

キュウリの後継株用のベッドは3月と4月に建設できます。上記と同様に栽培します。季節が進むにつれ、ベッド(の発酵熱)を少し軽めにします。

私は燃焼ピットにおけるメロンの誘引柵(水平な横木と支柱からなる柵)について取り扱うつもりですが、それはメロンの栽培を述べる時にいたしましょう。キュウリとメロン、2つの植物の栽培は非常によく似ています。 ここでは、同じ腐植土を使ってもキュウリはメロンよりも多くの空気と水を与える必要があることを述べるだけに留めておきましょう。

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ハンドガラスやベルガラス

ハンドガラスやベルガラス下でのキュウリの栽培は、促成栽培の一種ではありますが、一般にとてもよく理解されており、改善の余地はありません。上記と同じ品質の腐植土に植え、暑い季節には十分な量の水を与え、秋はできるだけ冷気と湿気を避けるべきで、それ以上さらに述べて時間を無駄にする必要はないでしょう。

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【害虫

私はキュウリを観察してきて、キュウリに寄生する昆虫はアブラムシ以外ほとんどいなかったと結論付けます。・・・当時がうらやましい限りですアブラムシは、ほとんどすべての庭師によく知られているタバコの燻蒸によって、いかなる状態またはいかなる状況においても素早く駆除されます。 

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