2022年3月6日日曜日

古代ギリシャ・ローマの教え:「The Gardeners Labyrinth」第18章

日本最古の農業書とされる清良記は、本書と近い時代(もう少し後)の書物です。日本は戦国時代で、米や麦が実った頃を狙って毎年のように敵がしょっちゅう攻めてくると書かれています。それは、書かれた伊予国だけでなく全国どこでも同じような状況で、そのため多くの餓死者が見られるとのこと。襲撃され、苦労してようやく育てた農作物を奪われるなんて、なんと理不尽で恐ろしい世界でしょう。そのようななか、ご先祖様たちが必死で世代を繋いでくれたおかげで、めぐりめぐって私がこの世にいるんだなぁと、ありがたい気持ちになります。

「・・・しかし、それほどの西園寺家も、四方いずれも強敵中の強敵なので、最近いつも籠城の用意をするばかりという状態に追いこまれている。そこへつけこんで敵方は、この地方の麦や稲がよく実ったころを見はからって攻めてくる。そうして乱暴のあらんかぎりをつくし、農作物の略奪はしたい放題である。そのため、農民は休む暇もないほどで、苦心して作った作物もほしいままに荒らされている。富者も貧者も身分の上下を問わずみな困窮して、道ばたで死ぬ者も多い。」日本農業全書10清良記(親民鑑月集)農術鑑月紀・阿州北方農業全書、p.6、校注・執筆 松浦郁郎・三好正喜・徳永光俊、社団法人 農山漁村文化協会 昭和55年刊

「The Gardeners Labyrinth」の地でも多かれ少なかれ似たような苦難があったことでしょう。第18章では、16世紀イギリスの庭師/園芸家が古代ギリシャ・ローマをよりどころにタネ蒔きに取り組んでいる様子が伝わります。

第18章 キッチンハーブの様々な種子の性質と選抜方法および播種時期についての古代ギリシャ・ローマの価値ある教え。

偉人コルメラは、「食用や鉢植え用のハーブのタネはすべて、月が満ちていく期間、すなわち新月から16日目までの間に蒔くべきだ。」と言っています。

月が欠けていく期間に蒔いたタネはすべてゆっくり発芽し、ゆっくり成長します。このため収穫も少なくなります。

(有能なヴァロが報告しているように)月が満ちていく期間中にタネを蒔いたとしても、かつ、そのタネが多汁で重みがあって、充実し、胚乳が詰まっていて、どこにも傷がなく、古くなくても、何らかの悪い星座によって成長が妨げられることもよくあることです。

熟練者でもそうなる場合は、「天の影響」と呼ばれる事象で、庭師が勤勉であるかどうかは全く関係ありません。そこで、その問題についてナポリの偉人パラディウス・ルティリウスが指摘していることをここで引用しても、差し出がましいことではないでしょう。

彼によれば、庭が新鮮で清浄な空気に包まれ、泉や良質の水がそばを流れて適度に湿った土地であることが必要であり、そうであれば、成功したも同然で、タネまきの準備が十分整っていると言えます。

湿った土にタネを蒔くのは5月のような春暖かい時期でなければなりません。月が満ちていく時期に、このように賢く蒔かれたタネは、その後の暖かく乾燥した夏を経て、良く育ちます。

しかし、乾いた大地にタネを蒔くしかなく、しかも水が遠くにしかない場合は、十分に水のある場所から水を導びく必要があります。そのために、ベッドの通路を深めにして傾斜をつけなければなりません。

このような乾いた土地にタネを蒔く時期は、収穫の頃が適しています。収穫の頃は雨で土が湿る直前の時期だからです。春であれ収穫の頃であれ、土の性質や月の満ち欠けも考えた上で、最適なタネを選択することを忘れてはいけません。

夏にタネを蒔きたいなら、7月と8月の月が満ちゆく間に行います。

9月の中旬頃と10月の、月が最初の1/4齢(新月から半月)の期間が収穫の頃にあたります。

そのほかのタネ蒔きの適期は、2月と3月です。2−3月の月の光が増していく時(月が満ちていく時)にタネ蒔きします。

9月中旬の収穫期の終わり頃から10月の、月が満ちていく時期に蒔くべきタネは、エンダイブ、タマネギ、ニンニク、ネギ、大ニンニク、若いネギ(リーキ)の頭、コルワーツ(結球しないカールしたざらざらの葉を持つ耐寒性のキャベツ)、カラシナなど、冬を越して地中で力をつけるものを選択します。

太陽の出ている時間が短く、1日中弱々しい光しか届かない場所、ヨークやそれよりさらに北の寒い国々では、庭の土は本来冷たいものです。そういった場所では、春半ば、5月の暖かで穏やかな日に、多くのタネを蒔くのがよいでしょう。月が光を増していく時を選びます。

そのような国や場所では、暖かい地域のわたしたちが蒔く時期よりもかなり早めに前もってタネ蒔きをしておく必要があります。一方、私たちの国のように暖かい場所では、春なら3月の初めといった短期間にタイミングよくタネを蒔く必要があります。暖かい国で収穫の頃にタネを蒔く場合は、かなり遅めに蒔きます。

収穫の頃か春のいずれかに蒔くキッチン用や鉢植え用のタネは、コルワーツ、カブ、アーティチョーク、エンダイブ、レタス、ディル、ロケット、コリアンダー、パセリ、フェンネル、ラディッシュ、パースニップ、ニンジンなど、多様です。タネは穏やかな天気の日に、整えた土に蒔きます。

なお、熟練者の報告によれば、これらのタネは、暑い国では7月に蒔くと生育が早まり、温暖な国では8月に蒔くのが良いとのことです。

寒い国の場合は、9月に蒔くべきです。これらの植物のタネを暖かく穏やかな日に蒔けば、暑い日や身を切るような寒い日に蒔かれたものよりもはるかに順調に生育します。その温かさのおかげで植物は快適に伸びますが、暑さは植物を乾燥させ、厳しい寒さは土を塞いでしまいます。

タネ蒔きに際しては、1年以上たったタネを使ってはいけません。胚乳が傷ついておらず充実したタネを使います。

逆に、古かったり萎れたタネは成長もしないし収穫ももたらしません。リーキ、キュウリ、ウリ類は、蒔く時にタネが新鮮で新しいほど早く芽を出します。

逆に、パセリ、ビート、オレガノ、クレソン、ペネローヤル、コリアンダーのようなタネはかなり古くなっても、すばやく発芽します。 そのため蒔くまでタネを腐らせないようにします。

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