2024年2月4日日曜日

19世紀末の園芸施設:4. 太陽光線

光としての太陽光、熱としての太陽光、そして太陽から来る電磁波について一通り解説されています。この後の温室の設計に対する基礎知識になっています。18世紀までの書物に比べて、ぐっと科学的な記述になっていて、科学が一般の人に身近になったことが感じられます。


HORTICULTURAL BUILDINGS.  By F. A. FAWKES. (1881)

太陽光線

植物と太陽

植物は、屋外だけでなくガラスの被覆下でも本質的に太陽光線で生命活動を行なっているので、誰かの専売特許であるいくつかの事実を受け売りでみなさんに述べるという危険を冒してでも、太陽光線の科学的特性と取り扱いを一通り解説しておくことは役に立つでしょう。

植物体内の炭素は大気中の炭酸ガスから来ています。

太陽光線の化学作用により、炭素は酸素から遊離されます。そして、炭素は水素と合成されて、セルロースまたは木質繊維を形成します。 酸素はガスとなって大気中に戻ります。

太陽光線には、光源、熱源、化学作用源の 3 つの異なる力があると言えます。

これらの力は非常に異なるため、熱線と光線を分離し、どちらかを部分的または完全に任意に遮断することができます。熱線や光線とは別に、化学作用を引き起こす光線もかなりの程度調べることができます。


光線

光線は何らかの方法で部分的あるいは全体を遮ることができます。

反射または屈折によってその経路を変えることができます。

また、吸収することもできます。

あるいは、これらを組み合わせることによって閉じ込めることができます。

真空を通過する光は損失なく伝播します。 しかし、それが何らかの媒体物質を通過するときは常に、媒体がどれほど透明であっても、その一部は失われます。

実際、大気にある厚みがあれば、太陽光が完全に遮断されることも可能です。

約 7 フィートの水深があればそこを通過する光線の半分を遮断できます。

レザビー博士によると、ガス灯のガラスのほやを透過する光の損失割合は次のとおりです。


表 I.— ガス灯のガラスのホヤによる透過光の損失率。

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透明なガラスのホヤ  12%の損失

すりガラスのホヤ  40%の損失 

オパールガラスのホヤ  60%の損失

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しかし、もし太陽光が直達光のみで、正午に私たちの目と太陽の間を不透明な物体で遮れば、私たちは瞬時に真夜中のように感じるでしょう。

実際はそうではなく、太陽が直接見えなくても、日中どこでも光があるのは、光はすべての物体で反射または拡散される(散乱光がある)という事実によるものです。


表 II. ガラス面の反射による光の損失。

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ガラス面への太陽                                        反射によって
光線の入射角度。                 照射量。        失われる光線量。

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 1,000          543

10°   1,000          412

15°   1,000          300

20°   1,000          222

30°   1,000          112

40°   1,000          57

50°   1,000          34

60°   1,000          27

70°~90°   1,000          25

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直射日光について温室に関係する非常に重要な事項は次の通りです。

透明なガラス板などの滑らかな表面からの反射によって失われる光線の割合は、光線がその表面に当たる角度によって変化します。

これはブーゲーによって表 II のように明らかにされています。

したがって、ガラスを通して太陽光線を最大限取り入れて利用したい場合は、光線ができるだけ直角に近い角度でガラスに当たるように調整することが最も有効であることがわかるでしょう。(「屋根の傾斜」の項を参照のこと)

太陽から地球までの距離は非常に遠いため、太陽光線が地球に到達する時には実質的に互いに平行な光線と見なすことができます。

一方、光源が手元近くにある場合は必然的に平行光ではなく放射状の光と考えなければいけません。

光放射の法則によれば、光強度は光源からの距離の二乗に反比例して減少します。

このことは、図 9 に非常にはっきりと示されています。これは、あの優れた小さな本「スポーツにおける哲学」からの図の転載です。

図 9. - 光と熱の放射を示す図。


たとえば、面積が 1 平方フィートのスクリーンがろうそくから 1 ヤード離れた場所にあるとき、2 ヤード離れたところでは光線によってスクリーンが作る影の面積は 2 平方フィートではなく 4 平方フィートになります。 3 ヤードは離れたところでは、3 平方フィートではなく 9 平方フィートになります。 4ヤード離れたところでは、4平方フィートではなく16平方フィートです。

言い換えれば、1 ヤード離れたところと同じ光強度を得ようとすれば、2 ヤード離れたところでは 2 倍ではなく 4 倍の強度の光源が必要になります。 3 ヤードでは 同じ強度を得るには3倍ではなく 9倍の強さの光源が必要です。 4ヤードで同じ強度を得るには、4倍ではなく、光源は16倍の強度が必要になるといった具合です。 


熱線

太陽の熱線も太陽の光線と同様に反射、屈折、吸収により部分的または全体的に遮断される現象が起こりますが、同じ遮蔽物質でも熱線と光線で影響は同じではありません。 

これは、明るく燃える火と顔の間にガラス板を挟むことによって理解できます。

熱線の熱さは遮断されるのを感じますが、光線は遮断されません。

太陽の熱線は光線と同様、真空中は損失することなく透過します。

熱線は大気などの圧縮性流体中をほとんど損失なく伝達されますが、その距離が大幅に増大すると損失の存在が非常によくわかるようになります。

これは、朝や夕方の太陽光が昼よりもはるかに弱い理由の1つです。

しかし、熱は熱放射以外の伝熱方式、つまり伝導と対流によっても伝達されます。

2 つの物質が接触すると、一方が他方より高温の場合、両方が平衡状態になるまで、前者はその熱の一部を後者に伝導で伝達します。

このような場合、静止した乾燥空気は最も熱伝導率の小さいものの 1 つとなります。

対流とは、流れによって熱を運ぶプロセスと理解されます。

水の入った容器の底を加熱すると対流が起こり、この対流によって熱がある部分から別の部分に伝達されます。

したがって、空気は静止していれば低伝熱性(高断熱体)ですが、動き始めると対流によって優れた伝熱体になります。

前のセクションで述べた、光の照射強度は光源からの距離の二乗に反比例して減少するという法則は、光線だけでなく熱線にも当てはまります。

人工熱とその応用に関連する、さらなるデータやコメントは「暖房」の項に記載しています。


化学線

光線と熱線のほかに、化学線(化学的に活性な光線、すなわち電磁線)が太陽から届いています。

光線は電磁波の一部を成していますが、その他の電磁波は完全に目に見えません。

表IIIにロスコー博士とソープ博士による実験結果が示されています。 それによれば、これらの化学線の強度は太陽の高度によって異なります。


表 III.—太陽の化学線の強度。 

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平均太陽光度  化学光線の強度

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° 日射  天空  合計 

51  38  38 

19  14    23    63  86 

31 14  52  100          152 

42  13  100  115  215 

53  136  126  262 

61  195  132  327 

64  14  221  138  359 

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これらの実験は、太陽高度がイギリスよりも高いリスボンで行われました。

したがって、この表と前述の説明から、太陽が地平線に近づくほど熱線、光線、化学線の強度が弱くなり、太陽高度が地平線から 10 度以下ならば、直射日光の中の化学線はすべて失われることがわかります。 

この実験の多数の同時実験から、パラにおける太陽の化学線強度は平均で 303'2、リスボンでは110、キューでは 46.06 であることが確認されました。 パラでの強度は実にキューの6.5倍以上です。

これらの数値は、植物学の視点から、イギリスと熱帯地方における太陽光の相対的な化学活性度の違いを表すものとして価値があります。

化学線は光線や熱線とほぼ切り離して調べることができます。実験によって、化学線はいつ最も強いのか、いつ最も弱いかを知ることができます。

そして、化学線について少なくとも 2 つの特徴 (化学作用を開始できるが継続できないものと、開始すると継続できるが化学作用を開始できないもの)に区別することさえ可能です。 しかし、この化学線が植物に及ぼす影響に関する私たちの知識は、ガラスハウスの建設において実質的な有効利用ができるほどにはまだ深まっていません。

私たちが光線や熱線と同じように化学線も簡単に制御できる日が来るかもしれません。

以上、ここで太陽光についてざっと見てきましたが、温室を建設し利用するにあたって、太陽光の特性を明確に理解しておくべきだけでなく、どう対処すべきかを知るための器具を所有しておくことが非常に重要であることがおわかりいただけると思います。 

必要に応じて最大限、太陽の光線や熱線を透過させて確保するために。 

私たちが望むときにその強度を和らげるために。 

私たちが望むように光線や熱線を遮蔽するために。

必要に応じて、すべての直達光線を遮蔽し、拡散光のみを利用するために。

人工光源や人工熱源を作り、稼働させ、制御するために。

実際、お風呂にお湯と水を供給するのと同じように簡単に、必要に応じて光線や熱線をオンにしたり、調整したり、オフにしたりすることができます。

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