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2025年7月9日水曜日

19世紀末の園芸施設:40. 様々な暖房方法 Ⅱ  ランプ・ガスストーブ・熱水・蒸気

 19世紀の暖房(発酵以外)はどれも、何かを燃やして空気や水の温度を上げる方法です。ここでは、温室にはやや不向きな方法が整理されています。

HORTICULTURAL BUILDINGS.  By F. A. FAWKES. (1881)

様々な暖房方法 II


ランプ

パラフィンなどのオイルを燃やすランプは暖房目的で使用されることもありますが、ごく小さなハウスを除けば効果的でないので利用されることはほとんどありません。
ランプの中には不快な臭いを放つものもあります。


ガスストーブ

燃焼生成物がハウス内に侵入するガスストーブは園芸に全く適しません。

ガスボイラーの(水を温める)場合、メンテナンス費が非常に高くなるのですが、小規模なハウスでは、その手間はそれほど大きくないことから、ガスボイラーが使用されることもあります。しかし、既存の装置よりもはるかに経済的に暖房できる装置が開発されるまでは、ホットハウス(熱帯植物育成用温室)にガスボイラーはお勧めできません(「燃料」の項を参照)。

いかなる状況下でも、園芸用にガスストーブを使用する場合は細心の注意が必要です。

ガスストーブの燃焼生成物は植物に非常に有害です。ガスストーブ自体が外壁の屋外側に設置されている場合でさえも、換気口から燃焼生成物がハウス内に吸い込まれた事例を知っています。


高圧熱水システム 

(大気に)開放された容器の水は加熱されても212 °F(112 ℃)を超えることはありません。

しかし、密閉容器であれば加圧加熱でき、はるかに高い水温にすることができます。

高圧熱水システムは、水を封入した錬鉄製のパイプ系統で構成され、パイプ内で加熱された水は300〜400 °F(150〜200 ℃)の温度でパイプ中を循環します。

この循環パイプは通常、細径です。

加熱されていない状態では、パイプ系統の水はこの膨張管の底部までに入っています。
燃料を投入して点火し、温度が上昇すると、空気は水よりも圧縮性が強いため、膨張管内の水は膨張して系統のパイプ内を満たします。

放熱面となるパイプの径は細く、温度が高いため、熱は集中して当たり、園芸用途には不向きなほどです。
さらに、パイプは高い内部圧力に耐える必要があり、パイプ近くで燃焼する危険ととも爆発の危険もあります。

システム系統の最も高い部分のパイプは膨張管として機能するように、より太いパイプにするか、または容器(タンク)が設けられています。

こうした理由により、このシステムは複数棟の組み合わせハウスにはほとんど用いられず、実際、園芸用に使用されることはほとんどありません。


蒸気

蒸気システムは、熱水の代わりに蒸気を使用する点を除けば、前述のシステム(高圧温水システム)と非常に似ています。

蒸気は熱水と同様、圧力が上昇するにつれて温度が一定の割合で上昇するという、同じ物理法則に従います。

したがって、蒸気による暖房についても高圧熱水の場合と同じ欠点が挙げられます。さらに、既に蒸気動力を使用している工場や建物のように排気蒸気や廃蒸気を利用できる場合を除き、蒸気を加熱媒体として使用することは経済的にもほとんど不可能です。


低圧温水暖房

低圧温水暖房は園芸用途に最も有利なシステムです。次ページで詳しく説明します。

2025年6月14日土曜日

19世紀末の園芸施設:40. 様々な暖房方法 I  煙道・ストーブ他

温室の19世紀における最も特徴的な進歩は暖房技術でしょう。本書でも暖房について多めのページを割いています。しかし、自動制御は全然ないので、現代とは隔世の感があります。

HORTICULTURAL BUILDINGS.  By F. A. FAWKES. (1881)

様々な暖房方法 I 

暖房は非常に広範なテーマであり、もしすべて網羅しようとすれば、本書で扱える量をはるかに超えています。

本稿では、園芸で用いられることはあるものの、通常は用いられない暖房システムについて言及し、それぞれの要点を述べることにしましょう。次に暖房に関わるいくつかの原理を述べ、最も一般的に採用されているシステムを解説し、そのシステムを構成する様々な要素について、順に論じていきます。

園芸目的で人工的に熱を得る方法としては、発酵資材、煙道、燃焼ストーブ、ランプ、ガスストーブ、高圧温水、蒸気、低圧温水などが挙げられます。


発酵資材

発酵資材による暖房はエンジニアの仕事ではなく、庭師や耕作者の領域に属すると考えられるため、ここでは取り上げません。


煙道

煙道は、単純に火炉と煙突を通路でつないだもので、暖房したい空間の近傍へ熱風を導きます。

熱風は火炉から煙突へと流れていく際に、通路を構成する材料(通常はレンガ)を加熱し、加熱されたレンガが次にその周囲の空気層を加熱します。

加熱された周囲の空気は上昇し、そこに冷たい空気がとって代わって加熱されては上昇します。このプロセス(熱伝導と対流)は、炉が熱を作り、まだ加熱されていない空気が周囲にある限り、継続します。

熱を持ったレンガはまた周囲の物体に熱を放射します(熱放射)。

煙道は急速に時代遅れになりつつあります。その主な理由(短所)は以下のとおりです。

接合部にひび割れが生じやすく、燃焼生成物が加熱されてハウス内に入り込み、植物に悪影響を与えます。

煙は華氏800度(摂氏約270度)まで加熱される可能性があり、そのような場合、煙道からの放射熱が集中すると植物が焦げてしまう危険があります。

熱の集中するところができる危険に加え、予想外の高温は空気を過度に乾燥させ、葉の生育を阻害するなどが危惧されます。

煙道は、重要なきめ細かな園芸作業でしばしば求められる繊細な温度調節や制御を行うことができません。煙道での暖房作動は不安定になりがちです。

多数の火炉がない限り、広大な一連のハウス群を効果的に暖房することはできません。

炉がひとつだけの煙道で、隣接する複数のハウスをそれぞれ暖房することはほぼ不可能だからです。

実際、たとえ他の条件が同じであったとしても、温風は温水のように効果的に制御できないと想定するのはもっともなことです。

煙道の内部には煤(これは熱伝導を非常に低下させます)が付着しがちです。

この煤を常に除去しておかないと、レンガが熱を吸収できなくなります。

また、必要以上に熱を吸収したり放射したりする煙道は燃料の無駄遣いと言えるでしょう。

一方(長所としては)、他の条件が同じであれば、煙道の初期費用は、効率的な温水暖房装置の初期費用ほど高くはなりません。

同量の燃料から得られる熱量は、温水装置よりも煙道の方が多くなります。なぜなら、適切な操作を行えば、煙道の空気は温水暖房装置の熱水ボイラーほど高温にする必要はないからです。

煙道の表面積は大きいので、表面積が小さい熱水ボイラーよりも燃焼熱をより多く吸収するはずだからです。

煙道にはこのような長所がありますが、短所による弊害がそれを上回るのです。


熱風の燃焼ストーブ

これには多くの種類がありますが、おおむね次の3つのグループに分けられます。;

—燃焼生成物と熱風を暖房対象の室内に排出するもの

—燃焼生成物は煙突から排出し、ストーブ本体からの熱放射を利用するもの

—新鮮な外気をストーブの放射面に接触させて加熱し、室内に送り込むもの


煙道に対する否定的な意見の多くは、一般的な園芸用ストーブにも当てはまるものです。

・熱は均一に分散せず、集中しがちです。

・過度の乾燥と高温を生じるおそれがあります。

・一部のストーブでは、有害な燃焼生成物が室内に漏れ出すおそれがあります。

・明らかに、通常の煙道ほど燃料効率が良くありません。

・発生する熱は容易に操作や制御ができません。

しかし、小さな園芸ハウス(霜を防ぐことだけが必要なタイプから)、馬具室、厩舎などでは、温水暖房設備は複雑で高価すぎますが、ジョイス社の製品のような、植物に有害な煙を発生させないように処理した炭を燃やす燃料ストーブなら使用が可能でしょう。あるいは、図91に示すようなゆっくりと燃焼するタイプのストーブがおそらく最適でしょう。

このストーブは耐火粘土で床と周囲が覆われていて、開放型の火格子の代わりに自在に開け閉めできるスライド式の吸気口が下部に設けられています。このストーブには煙突が必要で​​す。

図91. ポートウェイ社の低速燃焼ストーブ(特許取得済み)
シニア世代にとってはまさしく昔懐かしい鋳物製のだるまストーブ


2025年6月4日水曜日

19世紀末の園芸施設:39. 雨どいなど、施工に関する雑記

ここでも雨水処理や湿気、滴下に対する注意が述べられています。雨どいは、現代では金属製か樹脂製か、の選択になると思うのですが、19世紀は木製も有望だったんですね。19世紀なら、すっかり金属製になっているかと思ってました。

HORTICULTURAL BUILDINGS.  By F. A. FAWKES. (1881)

施工に関する雑記

この項では、他の項では触れていない施工上の詳細についていくつか説明します。

雨どい

雨どいには、鋳鉄ではなく亜鉛メッキ鋼板が使用されることがあります。

亜鉛メッキ製でもコストの削減効果は大きくありませんし、亜鉛メッキ製はたわみやすく、そこに梯子をかけることはできません。

軒板に十分な大きさがあれば、木製の雨どいを付けることができます。

木製の雨どいは、厚みがあるので木骨ハウスの他の木材部分と同等あるいはそれ以上に長持ちします。そのため、必ずしも金属材料で内張りする必要はありません。

しかし、施工者によっては木製雨どいに内張りするのを好む人もいます。その場合は木材と内張りの間に湿気が溜まらないように注意しなければなりません。

通常、屋根と側面の壁の接合部で屋根面の外縁は側壁と同じ面を形成します。そのため、屋根面外縁のプレート面に雨どいを固定すれば側壁から張り出すことになります。

側壁上にプレートを設置してそこに雨樋を固定し、雨どいの外縁が壁面からはみ出さないようにする場合もあります。

屋根の外縁に雨樋を固定する方が良いのですが、雨どいが境界となる壁からはみ出ないことが望ましい場合には雨どいを壁上に設けます(「法律」の項を参照)。

雨どいは、可能なら10フィートあたり約1インチの勾配(1/12勾配)にすべきです。しかし、常にそうできるとは限りません。勾配が平坦になるほど、縦樋の間隔は広くなります。

ハウスの谷樋はできるだけ、そばの住宅のレンガ壁に接しないようにします。

ハウスの屋根が住宅の壁に向かってどうしても下向きに傾斜せざるをえない場合、谷樋は幅広の鉛板でしっかりと雨押さえを施すとともに、その下を人が容易に歩行でき、雪、葉、その他、排水の邪魔になる物を清掃できる幅をとるべきです。

縦樋は、パイプや樋が葉などで詰まらないようにするため、パネル格子を通して排水するようにします。


部材の寸法

部材の寸法は大きすぎてもいけません。大きすぎると、太陽光を遮ったり、大気の作用を受ける面積が広くなり、反ったり、たわんだり、虫が入り込む隙間ができたり、腐りやすくなったりします。


屋根

屋根はしっかりと「結束」して壁や側面の窓に横方向の力が加わらないようにする必要があります。すべての応力が分散され、垂直方向以外の圧力がかからないようにしなければなりません。

筆者はこれまで直線形状の屋根や曲線形状の屋根のハウスを見てきましたが、そういったハウスでは斜めの木製支柱(ブレース、筋交)を必ずハウスを支えている壁の外面に着けて固定すべきとされてきました。そうしないと、レンガ造りの壁に一方的に力がかかってレンガ壁が不等沈下するでしょう。

屋根の換気口部分はハウスの他の部分と同様、閉じているとき、部分的あるいは完全に開いているときも、蝶番の部分から雨水が流れ込まない構造にする必要があります。

引き戸の桟(サッシバー)と垂木は最も滴下が生じにくい部分になるようにして、屋根を支える木材板は結露水が付着しないよう、上面を面取りする必要があります。


調度・備品類

ハウスの調度や備品類はすべて、しっかりとした耐久性のあるものでなければいけません。入手可能でも最安値の錠前、蝶番、歯車、開き戸、ドアハンドル、掛け金、紐などを使用するのは間違った節約方法です。

温室特有の厳しい空気環境にさらされてから2週間も経たないうちに錆びて役に立たなくなるような安物のリムロック(表面に着けるタイプの錠)よりも、数シリング余分に出して良質の真鍮製のほぞ穴錠を購入する方がどんな場合も有益です。

換気の吸排気口などの蝶番は、常に湿気にさらされるため、鉄製ではなく真鍮製にすべきです。


施工のポイントは本書の各所でも直接的または間接的に必要に応じて言及しています。

2025年5月25日日曜日

19世紀末の園芸施設:38. 結露と滴下

 温室内は高温多湿なことが多いので、結露が着いたり水滴が落ちたりしやすくて、植物にとっても建物にとっても大問題。当時は防滴性の被覆フィルムも循環扇もなくて、ハウスも小さくて、今以上に湿度や水滴の管理が大変だったことでしょう。

HORTICULTURAL BUILDINGS.  By F. A. FAWKES. (1881)

結露と滴下

原因

「湿度計」の項で述べたように、大気は目に見えませんが、様々な量の水分を保持しています。
温度が高いほど、空気が保持できる水分量も多くなります。
したがって、たっぷり水分を保持している高温の空気の温度が低下すれば結露が発生し、その結果、その目に見えない水分の一部が凝縮して水滴となります。

暖かい季節、冷水の入ったグラスの外側に生じる水滴、露、霧などは、いずれもその例です。

したがって、ハウス内外の気温差が大きいほど、ガラスハウスの内側で結露を生じ、その結露水は滴り落ちるか、ハウス内側の屋根面をつたって下へ流れる可能性が高くなることがわかります。

十分な換気は余分な湿気を外気へ排出し、水滴を防ぐのに大いに役立ちますが、大量の換気を行えば気温が下がってしまうので、ハウス内の高温を維持するのに何らかの工夫が必要になることも少なくありません。

屋根の勾配が小さいハウスほど、滴下する可能性が高くなります。もちろん、水滴が植物に及ぼす悪影響についてここで言及するまでもないでしょう。

凝結した水は凝結する際に熱(凝結熱)を一部放出するので、冷たくなっています。

水分が鉄の表面で凝結した場合、特にその鉄製部分が適切に塗装されていない場合は、錆びやすく、鉄はすぐに摩耗してしまいます。できた錆の一部は植物に落ちます。

構造上の予防策

ハウスの内部では結露が発生しやすいことを認識しつつ、植物、鉄製の部分、木材の部分への悪影響を可​​能な限り和らげるよう対策を講じるべきです。

具体的には、桟や垂木は水が滴りにくい形状にすること、水分が屋根面を伝って下まで流れるようにすること、桟、垂木、天窓が接する板材の頂部は水が切れるように斜めにすること、そして、費用を気にする必要がなく、望ましいと判断するなら、ハウス内に雨樋を設置することで結露水を受け、回収します。そして、鉄骨や木造材は両方ともしっかりと塗装しておくなどの対策が挙げられます。

山(棟部)と谷(樋部)が続く連棟ハウスの屋根は、水平に設置された雨樋の数が多いため、とても滴下が発生しやすいものです。

https://www.flickr.com/photos/internetarchivebookimages/20205946673/
両屋根連棟ハウス。図の右部に谷部の雨樋らしきものが見えます。屋根に降った雨水を集めるとともに、
パクストンは屋根面内側の結露水も内側屋根面を伝って樋に落ちるように工夫したことが本書で紹介されています。

ジョセフ・パクストン卿は、谷部の樋を施工する際、板の両側に小さな窪みや補助溝を設けることで、屋根からの滴下をかなり防ぎましたが、これは材質を弱め、必ずしも効果的ではありません。

また、骨材から滴下が起こらないようなハウスを建てたとしても、ガラスに結露した水はサッシバー(ガラスの格子)に遮られて、そこから流れ落ちることができず、結露した場所から直接滴り落ちるか、ガラス面を伝って流れ落ち、結局ガラスの重なった部分で滴り落ちてしまいます。

ハウス内の滴下は、結露によって引き起こされる以外に、ガラス板の重なり部分からの雨漏り、開閉中の換気口の継ぎ目から滴り落ちる雨水、あるいは換気口の開口部自体からの雨漏りによっても発生します。

屋根の勾配が非常に小さい(26度よりかなり小さい)場合、ほぼ確実に結露による滴下が生じます。 結露による以外の滴下の問題は、いかなる状況でも換気装置との接合部から濡れるおそれがないように作ることによって回避できるはずです。3 番目の換気口自体の問題は、換気に関する項で述べています。

屋外の滴下 

ハウス内部の滴下のほか、雨どいや屋根の排水システムの不具合が原因で、ハウス外部でも滴下が発生することがあります。

滴下が有利なのは、木材などの骨組みがレンガの壁の上にのせて建築されている場合だけです。この場合、側面のガラス板に当たった雨水やそこで結露した水がレンガの壁を流れ落ちないようにするべきですが、そのためにはレンガの壁上のプレートの張り出し部分が下向きなになるよう小さな凹みを作ればいいでしょう。

この凹みが滴下水を捕らえ、壁を伝って流れ落ちることなく、地面に滴り落ちるようにできます。

2025年5月9日金曜日

19世紀末の園芸施設:36. 通路

通路は庭を楽しむ重要な要素ですよね。回遊式庭園とか、歩くだけで楽しいですものね。温室も通路の大切さは同様で、狭い温室だからこその工夫が解説されています。

HORTICULTURAL BUILDINGS.  By F. A. FAWKES. (1881)

通路

園芸施設の内部の舗装には、恒久的なものと取り外し可能なものの2種類があります。

恒久的な通路

恒久的な通路は、石、スレート、レンガ、タイル、コンクリート、あるいはセメントで造ることができます。

石の通路は非常に耐久性があり頑丈ですが、スレートの通路のような利点はありません。スレート通路は湿気を逃し、清掃が容易です。しかし、スレート板は一般的な石の舗装板よりもはるかに高価です。

レンガが使用されることもありますが、通路としてとても満足する材料とは言い難いです。レンガは不規則に摩耗しやすく、良質のセメントで目地を埋めないと、継ぎ目が開いてしまいます。

厩舎で使用されているようなガラス質の青レンガも時々使用されます。

これは(下の図のように)縁が斜めにカットされているため、組み合わせると小さな横溝が連続的に形成されます。

https://www.flickr.com/photos/internetarchivebookimages/20171290883/in/photostream/

促成栽培用のピットやその床は常に湿気にさらされる可能性があります。そのような場所では、この舗装方法は非常に有効ですが、見た目が悪く、歩き心地もあまり良くありません。

タイルは、園芸施設の通路を施工する際に最も好まれる材料です。施工業者は通常、使用する6インチ (15 cm) または9インチ (22.5 cm) の赤と淡黄褐色のスタッフォードシャータイルを使用します。これを良質なコンクリートで作った床の上にセメントで丁寧に対角線方向に敷き詰めると、手頃な価格で、非常に整然としていて、耐久性があり、多孔でない、掃除が簡単で、見た目も美しい通路が完成します。

経験の浅い作業員によって不適切な敷設がなされると、いつまでも悩みの種となります。継ぎ目が開き、タイルが摩耗して緩み、ガタガタになり、見栄えが悪くなります。これらの問題を解決するには、タイルを取り外し、床を水平にし、適切に敷き直す以外に方法はありません。

一般的な栽培用ハウスにおけるタイル張りの通路については以上です。

コンサバトリーなどの展示鑑賞用ハウスでは、幾何学模様で高品質のタイルが求められ、ミントンタイルのような精巧なモザイクタイルがよく使用されます。(64~65ページ参照)

コンクリートの通路も時々採用されますが、表面を滑らかにするのが難しく、費用も通常のタイル張りの通路とほぼ同じため、コンクリート単体の通路はほとんど推奨できません。

セメントは通路に非常に適した材料ですが、コンクリートの床に敷設する必要があり、費用も良質なタイル張りの通路とそれほど変わりません。そのため、一般的にタイル張りの通路の方が好まれます。

石、スレート、コンクリート、セメントの通路では、採用した材料が自然な縁取りを形成しますが、タイル張りの通路では、縁に何らかの保護が必要です。

矮小な壁や温水管を覆うのに使用される格子でタイル通路の縁が保護されますが、そうでない場合は、石の平板または成形品、縁に沿って敷くことができるスレート板、あるいは特別に作られた縁取りタイル(いくつかの標準的なパターンがあります)のいずれかで縁取りする必要があります。


取り外し可能な通路

取り外し可能な通路は、人が足で踏むと損傷を受ける可能性のあるブドウなどの植物が植っているボーダー上に敷設するために必要です。

ボーダー上を人が直接踏む場合も土の上に敷かれた通路の上を歩く場合もかかる体重は同じですが、その体重は通路の上を歩く方が、通路がなく直接踏む場合よりもはるかに広い面積に分散されます。

この目的に適した格子状の木製通路は、4.5 x 1.125インチ ( 幅11.25 x 厚さ2.8 cm) の当て木を横方向に四つ、3/4インチ(1.875 cm)の間隔をとって、各端をきちんと段違いに交差させてつける(すのこを縦横に組み合わせたようなもの?)ことで簡単に作ることができます。

通路の堅牢性と耐久性を高めるために、これを間隔をとって並べた小さなレンガの支柱で支えるようにすることもできます。

この通路は、スレート、石、タイルほど耐久性はありませんが、最も安価で恒久的にも取り外し可能なものにもすることができます。

上記の格子状の木製通路の代わりに、装飾用の穴あきの鋳鉄板を通路として使用することもできます。しかし、鉄ははるかに耐久性が高いものの、高価で、錆びやすく、滑りやすく歩きにくいという欠点があります。

鉄製でも木製でも取り外し可能な通路は、通路下の土壌も利用できるので、恒久的な通路よりもボーダーをより広く利用することができます。つまり、ボーダーとして利用できる幅が広くなるので、通常よりも幅の狭い施設を建てることが可能になります。


一般的な注意点

ハウスはタイルなどの堅い素材で舗装できますが、取り外し可能な格子状の木製通路でさらにこれを覆っていることもよくあります。これは、洗濯婦が洗い場で履いた昔ながらの泥除けの木靴と同じ役割を果たしています。

コンサバトリーや花室の通路は、急速に舗装されるようになりつつあり、そこに椅子1、2脚とテーブルを置くのが適切で便利です。(「コンサバトリー」の項、63ページ参照)

堅い素材を通路とする場合は、排水の問題を忘れないようにしてください。

結露や散水で水分が通路に落ちやすいので、通路にわずかな傾斜をつけて水分が溜まらないように配慮する必要があります。

複数のハウスが組み合わされた建物の場合は、可能であれば通路をすべて同じ高さにすることをお勧めします。応接室からコンサバトリーへの入口を設ける場合、高さのある敷居がない場合は、コンサバトリーの通路は応接室の床より約2インチ (5 cm) 下になるようにしてください。そうすることで、コンサバトリーから応接室へ水が流れ込む危険がなくなります。

通路の幅は状況によって異なります。

栽培用のハウスは展示用ハウスにあるベンチ、ベッドや矮小壁といったものがないので、通路幅は2フィート6インチ (75 cm) で歩行に十分です。しかし、高さが地面から2フィート6インチ (75 cm) までのものが何かある場合には、通路をもう少し広く、例えば2フィート9インチ (82.5 cm) あるいは3フィート0インチ (90 cm) にします。

ハウスが小さく、利用可能なスペースを1インチたりとも無駄にしたくない場合は、例え横に障害となる物があっても、2フィート6インチ ( 75 cm) の通路で十分でしょう。

一方、大面積の大型植物用のハウスの場合、展示ステージ間の通路幅が3フィート6インチ(約90cm)あってもコンサバトリーの通路としては広すぎではありません。なお、通路の幅と位置は展示ステージの配置に大きく左右されます。

2025年4月25日金曜日

19世紀末の園芸施設:35. ボーダー

温室の内側だけでなく外側の周囲にも縁取りのように回らす栽培床がボーダーらしいです。

虫の多い日本では外側のボーダーの害虫が温室内に入ってくるのではなかろうか、と心配になります。でも、縁取りの植栽は見映えしますよね。

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ボーダー

ボーダーの条件

ブドウの根などの栽培管理をするうえで念頭に置くべき重要な点がいくつかあり、その点からボーダーの構成がある程度決まります。

排水は完璧にしなければいけません。根は生えている場所の堆肥や土壌だけが栄養の摂取源のなります。
場合によっては、この土壌を冷たい大気にさらしてはいけないこともあります。
図 90 はこれらの条件がどのように満たされるかを示しています。

図90 .ボーダーの断面図。
A: ハウスの外側のボーダー            
A': ハウスの内側のボーダー           
B: ドレイン、排水路                     
C: 瓦礫層                                    
D: コンクリート                           
E: 正面壁のアーチ                         
F: 一定間隔の支柱で支えられた通路 


排水

地面が傾斜していて、土が軽く、水が自然に排水できる場合は、人による特別な排水は不要である可能性があります。

ボーダーの底は瓦礫や石、レンガの層で形成されます。これはボーダーの排水を促すだけでなく、根がボーダーの外の土壌へ伸びるのを防ぎます。

土が重かったり、低地だったり、ボーダーから自然に排水されない可能性が少しでもある場合は、人工的な排水を慎重に施す必要があります。

このような場合、ボーダーを作るのに最善の方法は、最初に外側の擁壁に向かって下向きに傾斜するコンクリートの層を敷き、その傾斜の最も低い地点に排水の縦溝を設けることです(図90のD)
次に瓦礫の層を作ります。ボーダーに対して横向きの小さな排水管をいくつか設置します。

次に、瓦礫の隙間に栽培土が詰まるのを防ぐために芝を敷きます。次に、ボーダー本体となる栽培土を置きます。

排水の問題は非常に重要で、特に重い(粘土のような)土壌の場合、ボーダーの領域は可能な限り地表面より上にすべきです。

図90で示すほどの大きな角度でコンクリート基礎を傾斜させることが困難な場合は、横方向の排水溝を効率的に敷設する必要があります。

瓦礫層は排水の容易さや難度に応じて 6 〜 12 インチ(15〜30 cm) の厚さにします。


ボーダーの形状

ボーダーの適切な深さは、意見や状況によって異なりますが、平均的な深さとしては 2 フィート 6 インチから 3 フィート 0 インチ (75〜90 cm) が適切だと考えられます。

ボーダーの幅は他の状況にも依りますが、屋外側の壁際のブドウの木であれば、大まかには10 フィートから 11 フィート (3〜3.3 m) が適切でしょう。一方、ハウス内のボーダーにあるブドウの木の場合、ボーダー幅は全体として垂木の長さに等しくなるでしょう。

工事

図90では、ボーダーの一部がハウスの内側にあり、一部がハウスの外側にあることがわかります。正面の壁は、根がこのどちらの方向にも走れるように基礎はアーチ状にして建てられています。 

あるいは、代わりに、軽い鉄の柱でマリオン(方立(ほうだて))を支え、マリオン間の空間をスレート板で埋めることで、正面壁の一部を省略してアーチの必要性をなくすという方法を採用することもできます(「レンガ積み」の項を参照)。

場合によっては、特に早生のブドウの場合は、ボーダーの一部を外の冷たい空気にさらして根の活動を阻害しないように、ボーダーは全体をハウス内にすることをお勧めします。

実際には、ボーダーの上部を完全に寒さから守るだけでなく、ボーダーの下部に温水パイプを設置する、すなわち「促成栽培の栽培ベッド」の項で示したような方法でボーダーの底部に熱を供給することが必要であると考えられる場合もあります。

ただし、一般的な用途であれば、図 90 に示すようなボーダーを作れば十分です。

必要であれば、間隔を空けて立てた支柱に支えられた通路によって、ボーダーをハウスの内部から後ろの壁まで通すこともできます。後ろの壁に近いボーダー部分は壁付けの樹木用に利用できます。

あるいは、コンクリートや瓦礫層は歩道のこの側を支えるために建設された壁までとし、歩道の外側の端までをボーダーとすることもできます。

後ろの壁際に(そして通路の下に)補助的なボーダーを設け、壁付けの樹を植えたり、このスペースを棚として利用したりすることもできます。

ブドウの根が隣のボーダー部分に植ったブドウの根と干渉するのを防ぐためやボーダー内の隣同志のブドウの根の干渉を防ぐためといった管理方法は異なるものの、風通しは同じにする必要がある場合などには、ボーダーに横向き(幅方向)の壁を設けることもあります。

先の図は、後ろの壁近くに通路があることを示しています。ハウスが広く、正面の近くに通路が必要な場合は、木製のトレリスの通路をボーダー上に置くのが最適です。


一般的な注意

ボーダーに関して言えば、両屋根ハウスや片流れ屋根以外のハウスでも全く同じことが当てはまります。

通路の端を支える支柱や矮小の壁は、一部の温水パイプを支えるために利用することもできますし、その他、前壁のアーチを支える支柱を厚くすればそれに固定することもできます。あるいは、ブドウの茎がパイプに近すぎる場合は、前壁の内側に少し距離をとって支柱を立ててパイプを支えることもできます。

ボーダーの土作りは建築というよりも栽培の課題であるため、本書では論じません。

屋内だけでなく屋外にもボーダーを作る場合、霜や冷たい雨から守るために、外側の部分を防水シート、敷石、シダ、マット、粗板、その他の材料で覆う方が良い場合があります。

ボーダー全体をいっぺんに作るのは必ずしも得策ではありません。

ブドウの根の成長に応じてボーダーを作っていくことはボーダー材料を節約するだけでなく、ブドウの実りを増す傾向があると、多くの園芸家は考えています。しかし、これはボーダーの栽培土にのみ言えることです。ボーダー全体で必要な擁壁、支柱、砕石、排水路などは、部分的に作るよりも一度に作る方が効率的です。

2025年4月6日日曜日

19世紀末の園芸施設:34. 促成栽培用ベッド

促成栽培用ベッドは加温ができる栽培床のことです。加温方法はそれまでの堆肥発酵熱利用や煙道による加熱から温湯パイプによる加温に急激に移ったことがうかがえます。温湯パイプは堆肥発酵の手間や煙道に比べたら清潔度が格段に良いですもんね。

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促成栽培用ベッド

促成栽培用の栽培ベッドには様々な種類があり、いろいろな目的に使用されますが、その原理は同じです。

これらに共通する主な特徴は、気温ではなく地温によって、植物の繁殖や展示ハウス用植物の育成、野菜、花、果物の促成栽培を行うところにあります。

つまり、空気の加熱や加湿による茎や葉の直接的な成長促進とは異なり、根の周りの土壌の温度を上昇させ、蒸気の発生によってこの土壌に水分を与えます。 

図 89 は、促成栽培ベッドの最適とされる形式の 1例を示しています。


図 89.—促成栽培ベッドの断面図。

促成栽培ベットは、発酵物、煙道、または温水パイプによって加温することができます。
発酵は私たちの対象外で、煙道は時代遅れと考えられるため、温水パイプの方法のみを扱います。

ハウスの擁壁(左の壁)は追加の低い壁(ハウス内の中央付近の壁)と合わせて栽培土壌の受け皿となります。そこに植物を植えたり鉢を埋めたりします。

この 2 つの壁は基礎部分が厚くなっていて土の受け皿となる棚のような形を成しています。

下に栽培ベッドを加温するためのパイプがあります。

このパイプは蒸発装置があってもなくても使用できます。

水分を蒸発させたい場合、このパイプを水を入れたタンク内に固定するか、パイプの一部に蒸発皿を付けたものを鋳造するか、または取り外し可能な亜鉛などの蒸発皿を通常のパイプに取り付けたりすることができます。

内側の壁の突起部を除いて、パイプの周りのスペースを瓦礫で埋め、その上に直接土をのせる方法もあります。

ただし、さまざまな理由から、パイプの周りは空間を設けることが望ましい場合が多いです。

その理由として第1に、蒸発皿が付いているパイプかパイプが水タンクを通っている場合は、その水を交換する必要があるので、特にアクセスしやすい(手を入れて作業しやすい)ことが重要だからです。

第2に、この方法なら、土に水を注がなくても蒸発させることができます。

第3に、この方法なら、外気の取り入れ口を外壁に簡単に作ることができます。また、排気口を内壁に設置することも容易です。そうすれば、ハウスの内部に暖かい空気を引き込みたい場合、内壁に出口を設置することで、冷気は促成栽培ベッド上を通過せずパイプの近くを通すようにすることができます。

多くの栽培ベッドは経済性を考慮して構築されます。すなわち、ベッドの下を通るパイプが空気だけでなく土壌にも熱が供給できるようになっています。

ただし、この場合の欠点は、空気を加温するのは簡単ですが、土壌を加温してハウス内の空気に影響を与えないようにするのは非常に難しい点です。

可能な限り、土壌と空気は別個に加温する手段を用意することをお勧めします。 

図 89 では、空気へは、前側のガラス面近くに設置されたパイプによって熱が供給されます。パイプには必要に応じて蒸発皿を設置できます。

もちろん、この空気を加温するパイプは図に示されている位置に加えて、または、図に示されている位置の代わりに、通路、背面、または内側の擁壁の上部に配置すると便利かもしれません。

この促成栽培ベッドはあらゆる形状のハウスに適用できます。

図に示したような立て掛け式ハウス、あるいは 4 分の 3 スパンの両屋根ハウスや、ガラス面に接して両側に栽培ベッド(または、片側にのみベッドがあり、もう片側に栽培ベンチ)があり、中央に通路がある比較的幅の狭いハウスやより幅の広いハウス (両脇のガラス面横に栽培ベッド (または栽培ベンチ) のスペースがあり、中央にもベッド (またはベンチ) があって通路が 2 本あるハウスでも使用できます。

あるいは、促成栽培ベッドは最も単純な形状の栽培装置、すなわちガーデンフレームやガラス窓のフレームでは、ガラス面の 1 つをスライドさせるか持ち上げることでパイプにアクセスできます。

場合によっては、促成栽培ベッドを固い底にすることが推奨されます。

底面が固いと、パイプの周りの空間は清潔に保たれ、土で汚れないようにできます。また、ベッドから水分が簡単に流れ出ないのでベッドの湿り気を保つことができます。ただし、温水パイプとベッドの土の間の熱伝導が悪くならないよう注意しておく必要があります。

パイプから放射される温風が栽培土壌に直接触れるほど、土はより容易に加熱されます。このため、ベッドの底は骨組み構造にすることをお勧めします。

パイプの上にきっちりとカバーをしてから土を置くのが望ましいと考えられる場合は、一定間隔の骨組みの支えの上に亜鉛またはスレートを敷く方が、隙間なく板張りにするよりも優れています。

なぜなら、木材が他の材料よりも腐りやすい点を除いても、条件が同じであれば、各種材料の熱伝達力の相対値は次のように異なるからです。

亜鉛 430 

レンガ 12

スレート 42

木材(モミ) 3

したがって、パイプと土壌の間の中間材が必要な場所には熱伝導性の高い材料を配置する必要があります。

鉄は亜鉛よりも熱伝導率が高いですが、錆びるためほとんど使用されません。

同じ理屈で、ベッドの側面は熱を逃さず保持する必要があるので、熱伝導率の低い材料にする必要があります。

したがって、ベッドの側面には、レンガよりも木材、スレートよりもレンガ、亜鉛よりもスレートの方が適しています。

しかし、木材は腐りやすくレンガほど厚さがないので、レンガが使用できる最良の材料でしょう。特に、一般的には、1 つ以上のレンガの壁がすでにある場合はなおさらです。 

どんな種類の促成栽培ベッドも適切な排水が必要であることは言うまでもありません。

促成栽培ベッドに意匠をこらしたボックスを使用することもあります。

そのようなボックスとしては、栽培ベッドを軽いフレームとガラスで覆うタイプもあれば、亜鉛またはスレート底を持つ独立したボックスで、それをベッド内に埋め込んだり、パイプの上に置いたりして、蒸発機能を備えているタイプもあります。

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